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『チャイナタウン』この世の地獄を見た映画作家が、己のトラウマと対峙するフィルム・ノワール ※注!ネタバレ含みます。

(c)Photofest / Getty Images

『チャイナタウン』この世の地獄を見た映画作家が、己のトラウマと対峙するフィルム・ノワール ※注!ネタバレ含みます。

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※本記事は物語の結末に触れているため、映画をご覧になってから読むことをお勧めします。


Index


ポランスキーを襲った二度の悲劇



 「この世の地獄を見て育った*」


 かつてロマン・ポランスキーは、こんなコメントを残している。1933年にフランスのパリで生まれた彼は、幼少時に家族でポーランドへと移住。しかし第二次世界大戦が始まると、吹き荒れる反ユダヤ人政策によって迫害の対象となり、幼少期をクラクフのユダヤ人隔離居住区で過ごした。まだ年端もいかないポランスキー少年は、おびただしい死と暴力をその眼に焼き付ける。


 やがて父親の手引きによって、隔離居住区を脱出。ナチスから身を隠し、各地を転々としながら地獄の戦火を生き延びる。だが、母親はアウシュビッツに強制連行され、ドイツ人の手によって虐殺されてしまう。しかも、その胎内には新しい命が宿っていた。それは強烈なトラウマとして、彼の心奥深くに刻み込まれることになる。


 戦争が終わると、ポランスキーは映画大学に入学。『水の中のナイフ』(62)で監督デビューを飾り、『反撥』(65)でベルリン国際映画祭銀熊賞、『袋小路』(66)では金熊賞を受賞。ハリウッドに請われて手がけた初のアメリカ作品『ローズマリーの赤ちゃん』(68)も大ヒット。映画監督として名を成したポランスキーは、女優のシャロン・テートと結婚し、ロサンゼルスに居を構える。


 公私共に充実した幸せな日々。だが、再び悲劇は繰り返される。彼が仕事でロンドン滞在中、カルト教団マンソン・ファミリーが自宅に押し入り、テートが彼らの手によって惨殺されてしまったのだ。当時彼女は、妊娠8ヶ月。母親ばかりでなく、身重の妻も理不尽な暴力によって失ってしまう。


 憔悴しきったポランスキーは、ロサンゼルスを引き払って活動の場をヨーロッパに移す。彼にとってこの場所は、忌まわしい過去が蘇る魔窟でしかなかった。そして数年後、彼の元にハリウッドから監督のオファーが舞い込むーーーそのタイトルは、『チャイナタウン』(74)。


『チャイナタウン』予告


 舞台は’30年代のロサンゼルス。浮気調査を依頼された探偵ジェイク・ギテス(ジャック・ニコルソン)が、いつのまにか水利権に絡んだ陰謀に巻き込まれていくという、レイモンド・チャンドラー風フィルム・ノワールだ。だが、『チャイナタウン』のオファーを受けることとは、愛妻が惨殺されたロサンゼルス(ハリウッド)に戻って、ロサンゼルスを舞台にした映画を撮るということを意味していた。


 しかも、ギテスはかつてチャイナタウン地区の警察官だったが、愛した女性を守ることができず、警察を退職して忌まわしき場所から離れた過去を持っている。まるで、かつて愛する妻を守ることができず、ロサンゼルスを離れたポランスキーのように。『チャイナタウン』は、この世の地獄を見た映画作家が、己のトラウマと対峙するフィルムなのである。


*:「世界の映画作家 13 ロジェ・ヴァディム ロマン・ポランスキー」(キネマ旬報社)




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