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『GUNDA/グンダ』五感を集中させることで世界のざわめきを感じる、至高の映像体験

© 2020 Sant & Usant Productions. All rights reserved.

『GUNDA/グンダ』五感を集中させることで世界のざわめきを感じる、至高の映像体験

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「明確に何を撮るかを理解する」。コサコフスキーの哲学



 ネイチャー・ドキュメンタリーの制作現場では、何年もかけて撮影を続け、何百時間もの素材を集め、長時間編集室にこもって映像を繋いでいくことも珍しくない。気の遠くなるような作業の積み重ねによって、一本の作品が世に送り出されるのだ。では、上映時間93分の『GUNDA/グンダ』で、コサコフスキーはどれだけフィルムを回したのだろうか?ーー答えは、7時間。たったの7時間だ。その理由は、彼の幼少期の記憶と密接に繋がっている。


 「私が4歳の時に飼っていた子豚の話は、皆さんも聞いたことがあるのではないでしょうか?その子豚が生後1ヶ月の時に、私の親友になりました。本当に楽しい時間を過ごしました。それがある日、クリスマスや大晦日の昼食や夕食のために、殺されてしまったのです。私にとっては最悪の出来事でした。この記憶がずっと残っていて、最終的にベジタリアンになったのです」(ビクトル・コサコフスキーへのインタビューより引用)



『GUNDA/グンダ』© 2020 Sant & Usant Productions. All rights reserved.


 やがて映画の道に進んだコサコフスキーは、編集について学んだときに、フィルムのネガが動物の骨から作られていることを知る。それは、彼にとって天地がひっくり返るような衝撃だった。映画に生涯を捧げたいと考えていたのに、そのためには無数の動物たちの生命を奪うことになってしまう。一体どうすればいいのか?彼が導き出した答えは、「本当に必要と思われるショットだけを撮る」という、シンプルなものだった。


 例えば、農民の家族の生活を追った初期作品『The Belovs』(92)で、彼はわずか3時間ぶんの映像しか撮っていない。その素材を元に1時間のドキュメンタリー作品を創り上げ、アムステルダム国際ドキュメンタリー映画祭(IDFA)の長編ドキュメンタリー賞と観客賞をW受賞するという、快挙を成し遂げたのだ。


 明確に何を撮るかを理解し、無駄にフィルムを費やすことはしない。これはコサコフスキーの哲学と言えるだろう。彼は作家のエゴのためではなく、地球のためにカメラを回すのだ。




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