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『インヒアレント・ヴァイス』陰謀と腐敗に彩られた、’70年代のカリフォルニア・ドリーム

© 2014 Warner Bros. Entertainment Inc., Interactivecorp Films, LLC and RatPac-Dune Entertainment LLC.

『インヒアレント・ヴァイス』陰謀と腐敗に彩られた、’70年代のカリフォルニア・ドリーム

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『インヒアレント・ヴァイス』あらすじ

ロサンゼルスで私立探偵を営むドックは、不動産王で大富豪の愛人である元カノのシャスタから依頼を受ける。不動産王の妻とその恋人が財産を奪い取ろうとするのを阻止してほしいという内容で、ドックはさっそく捜査に乗り出す。だが、ドックは殺人の疑いをかけられてしまい、怪しげな騒動に巻き込まれていく。


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「トマス・ピンチョン作品を映像化したい」というPTAの野望



 ネオン管をイメージしたタイトル・ロゴが現れ、サイケデリックなCANの「Vitamin C」が流れるオープニング・シーンから痺れた。色褪せた絵葉書のようなルックで’70年代ロサンゼルスを捉えた、ロバート・エルスウィットによる撮影。レディオヘッドの“頭脳”ジョニー・グリーンウッドが奏でる、不穏なサウンド・トラック。そして、ほとんどラリっているとしか思えないホアキン・フェニックスのクレイジー・アクト。サイコーに狂ってて、サイコーにグルーヴィーな映画、それが『インヒアレント・ヴァイス』(14)だ。


 筆者は『インヒアレント・ヴァイス』を五回観ている。だけど、どういう話なのかいまだによく分かっていない。元々アタマは悪い方だが、筆者のせいではない。情報量が多いうえに、一つ一つのエピソードがミルフィーユ状に折り重なっているもんだから、話の繋ぎ目がまるで分からないのだ。っていうかハードボイルド映画って、だいたいそんなもんだろ。


『インヒアレント・ヴァイス』予告


 ハワード・ホークス監督による名作『三つ数えろ』(46)も、プロットが複雑に入り乱れ、たくさんの登場人物が入り乱れ、一見しただけではナニがナンだかよく分からん作品であった。原作に曖昧な表現があったため、ホークスが作者のレイモンド・チャンドラーに問い合わせたところ、「俺だってよく分からねえよ!」と逆ギレされたのは有名な話。ストーリーの整合性なんぞ二の次なのだ。


 明らかに『インヒアレント・ヴァイス』は、『三つ数えろ』の“ストーリーの整合性は二の次”スピリットを受け継いだ作品だ。監督のポール・トーマス・アンダーソン自身、こんなコメントを残している。


 「僕は、『三つ数えろ』を観た時に、物語はほとんど覚えていなくて、代わりにどう感じたのかという気持ちと、映像を強烈に憶えているんだ。僕の脳みそは、どうやって物語が繋がっていったのかはどうしても憶えることができなかった(笑)」(ユリイカ 2015年5月号 特集ポール・トーマス・アンダーソンより引用)


 『インヒアレント・ヴァイス』の原作がトマス・ピンチョンとなれば、「訳の分からなさ」はなおさらだろう。ポストモダン文学の旗手である彼の作品は、無秩序で小難しくてクセが強い。おまけにテレビだの音楽だの、当時のポップカルチャーがやたら横溢している。それでも、彼の熱狂的ファンであるポール・トーマス・アンダーソンは「いつか、トマス・ピンチョン作品を映像化したい」という野望を抱いていた。




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