© 2014 Warner Bros. Entertainment Inc., Interactivecorp Films, LLC and RatPac-Dune Entertainment LLC.
『インヒアレント・ヴァイス』陰謀と腐敗に彩られた、’70年代のカリフォルニア・ドリーム
2021.06.29
「他の誰かが映画化して台無しにしてしまうくらいなら、俺が台無しにしてやる」
ポール・トーマス・アンダーソンは、トマス・ピンチョンの小説「ヴァインランド」と「メイスン&ディクスン」の映画化を検討したものの、圧倒的な分量と難解なストーリーゆえに断念した経験があった。だが『インヒアレント・ヴァイス』が発売される一ヶ月前、ピンチョンが映画化権の売却に前向きであることを知り、今度こそとばかりにチャンスに飛びつく。「他の誰かが映画化して台無しにしてしまうくらいなら、俺が台無しにしてやる」という覚悟で。
「ピンチョンが長年にわたって本の中で語ってきた多くのことが、完璧に集約されているように思えたんだ。これは、彼がカリフォルニアについて書いた3冊目の本だ。ピンチョンの作品には必ず必要な、素晴らしいパラノイアが描かれている」(ガーディアン ポール・トーマス・アンダーソンへのインタビューより引用)
『インヒアレント・ヴァイス』© 2014 Warner Bros. Entertainment Inc., Interactivecorp Films, LLC and RatPac-Dune Entertainment LLC.
さっそくアンダーソンは、原作の中から会話の部分だけパソコンに書き出していく。原作は膨大だし、なかなかに骨の折れる作業だったが、ストーリーの把握に役立ったという。そして彼は、過去のピンチョン作品に比べて、分かりやすいストーリー構造であることに気づく(もちろん普通の小説と比較したら、めちゃめちゃ錯綜しているのだが)。「ピンチョン=映画化不可能」と言われ続けてきたが、唯一と言っていいくらいに『インヒアレント・ヴァイス』は映画向きの題材だったのだ。
『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』(07)では、アプトン・シンクレアの原作に大きく脚色を加えたポール・トーマス・アンダーソンだったが、結果的に『インヒアレント・ヴァイス』は、ストーリーラインやセリフにとても忠実な作品に仕上がった。