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『インヒアレント・ヴァイス』陰謀と腐敗に彩られた、’70年代のカリフォルニア・ドリーム

© 2014 Warner Bros. Entertainment Inc., Interactivecorp Films, LLC and RatPac-Dune Entertainment LLC.

『インヒアレント・ヴァイス』陰謀と腐敗に彩られた、’70年代のカリフォルニア・ドリーム

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ジョアンナ・ニューサム起用によって生成された“奇妙な味”



 私立探偵ドック役には、当初ロバート・ダウニー・Jr.が候補に上がっていた。だが「この役にはあまりにも年を取りすぎている」とポール・トーマス・アンダーソンが難色を示し、『ザ・マスター』(12)でタッグを組んだホアキン・フェニックスがキャスティングされる。ホアキンは脚本を受け取って、「物語を理解するのではなく、物語の中に巻き込まれて、混乱すること」が最も重要だと考えた。そう、彼もまた“ストーリーの整合性は二の次”スピリットを発揮したのである。


 「ポールはまず原作を渡してくれた。原作を読み終えてから脚本を読んだんだ。その後2回目を読もうとしたんだけど、途中でこれはあまり知りたくないな、と思ってしまった。何が起こっているのか知るんじゃなくて、混乱したかったんだ」(denofgeek ホアキン・フェニックスへのインタビューより引用)



『インヒアレント・ヴァイス』© 2014 Warner Bros. Entertainment Inc., Interactivecorp Films, LLC and RatPac-Dune Entertainment LLC.


 いつも凍らせたチョコバナナをくわえているビッグフット警部補役には、ジョシュ・ブローリン。元カノのシャスタ役はキャサリン・ウォーターストン、今カノのペニー役にはリース・ウィザースプーンがキャスティングされた(ホアキンとは 『ウォーク・ザ・ライン/君につづく道』(05)に続く共演)。


 特筆すべきは、ソルティレージュ役のジョアンナ・ニューサムだろう。彼女はハープの弾き語りでアシッド・フォークを歌うシンガーソングライターだが、その個性的な声がとってもキュート。「この映画には女性のナレーションが必要だ!」と天啓が閃いたポール・トーマス・アンダーソンが、ドックの探偵事務所の元職員であり、何やらスピリチュアルな力を持っているというソルティレージュをそのまま「映画の語り手」に抜擢してしまった。物語にはほとんど関与しない彼女がナレーションを担当することで、映画に“奇妙な味”がアクセントとして加わる。どこか散文的で非現実的なトーンが生成されたのだ。


 ちなみに、トマス・ピンチョンは公にはいっさい顔を見せない覆面作家として知られているが、ジョシュ・ブローリンのコメントによると、彼が映画のどこかにカメオ出演しているんだとか。それが本当なのか嘘なのか、出演しているとしたらどのシーンの誰なのか、真相はいまだ謎のまま。この話自体がすごく『インヒアレント・ヴァイス』っぽいではないか。




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