© 2014 Warner Bros. Entertainment Inc., Interactivecorp Films, LLC and RatPac-Dune Entertainment LLC.
『インヒアレント・ヴァイス』陰謀と腐敗に彩られた、’70年代のカリフォルニア・ドリーム
2021.06.29
アメリカ固有の瑕疵、アメリカに内在する欠陥
インヒアレント・ヴァイス(inherent vice)とは、海上保険用語で「固有の瑕疵」という意味。商品にヒビが入っているとか、サビができているとか、輸送する際に避けられない事故に関して、運送会社側は保険の支払いを拒否することができるのだ。「内在する欠陥」と言ってもいいだろう。
もちろんこの映画では、運送会社はアメリカそのものに置き換えられる。「アメリカ固有の瑕疵」、「アメリカに内在する欠陥」という訳だ。だからドックがどんなに孤軍奮闘しようとも、「黄金の牙」なる謎の組織は最後までその正体を見せないし、黒幕が逮捕されることもない。それは、なんぴとたりとも侵犯することのできない、世界に織り込み済みのシステムだ。映画でのビッグフットの言葉を借りるならば、この世は「不都合な世界」なのである。
『インヒアレント・ヴァイス』© 2014 Warner Bros. Entertainment Inc., Interactivecorp Films, LLC and RatPac-Dune Entertainment LLC.
だから、『インヒアレント・ヴァイス』にはある種の空虚さが漂っている。我々はドックの徒手空拳ぶりを、ただただ黙って見守るしかない。胸がすくようなカタルシスもない。圧倒的情報量を前にして、次第にストーリーなんかどうでもよくなってくる。だけどワンカットワンカットがあまりにも魅力的すぎるから、訳も分からないままにスクリーンに釘付けになってしまう。まさしくドラッグのような映画ではないか!筆者がこの作品を偏愛しているのは、「陰謀と腐敗に彩られた’70年代のカリフォルニア・ドリーム」が、あまりにもまばゆい光を放っているからなのだ。
最後に余談を一つ。コロラド州デンバーにある映画館アラモ・ドラフトハウス・シネマは、『インヒアレント・ヴァイス』上映にあたって、参加者が好きなだけマリファナを吸うことができるバス・ツアーを企画したという。コロラド州はマリファナが合法なのだ。このバスにはポール・トーマス・アンダーソンも同乗していたのだが、マリファナは丁寧に断ったそうな。
参考:
https://www.imdb.com/title/tt1791528/trivia
文:竹島ルイ
ヒットガールに蹴られたい、ポップカルチャー系ライター。WEBマガジン「POP MASTER」主宰。
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発売元:ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント
販売元:NBC ユニバーサル・エンターテイメント
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