2021.12.24
ネタバレ注意! イーストウッド映画ではありえなかった結末
3つめのポイントは、やはりイーストウッドのストーリーテリングの妙だ。本作は他のイーストウッド作品と同様にユーモラスな場面がいくつかある。たとえば、レッドの手引きでホイットがハメをはずすことになる数々のエピソード。車の運転に始まり、レッドと鶏泥棒を働いたり、それにより逮捕されたレッドを脱獄させたり、娼館に足を踏み入れたり。14歳の息子に、こんな無法の役をよく演じさせたものだ……と思えなくもない。
一方で、旅を通してホイットは、レッドがたどってきた人生を知る。心の底から愛した女性がいたこと。彼女と破局するも、その間に子どもができていたこと。復縁を望むも、その夢がかなわないこと……。一見、破天荒な大人にも、秘められた物語がある。それを知って大人になる成長劇という点では『グラン・トリノ』『クライ・マッチョ』といった、後のイーストウッド作品に通じるものがある。
『センチメンタル・アドベンチャー』(c)Photofest / Getty Images
何より注目すべきは、マルパソ製作のイーストウッド主演作で、彼ふんする主人公が初めて命を落とすことだろう。不死身のアクションヒーローだったイーストウッドが、映画の中とはいえ死んでしまうのは、ありえないことだった。それだけでも、当時のイーストウッド作品としては異質であったのだ。
マルパソの長い歴史を振り返っても、劇中でイーストウッドふんするキャラが亡くなるのは、これと『グラン・トリノ』(08)しかない。しかし、『グラン・トリノ』で主人公の愛車が次世代に受け継がれたように、本作でも主人公は次世代に大きなものを残す。肉体は滅ぶが精神は消えない――そんなテーマを人間味とともに伝える『センチメンタル・アドベンチャー』。イーストウッド映画史の中に埋もれさせるには、あまりにもったいない秀作である。
文:相馬学
情報誌編集を経てフリーライターに。『SCREEN』『DVD&動画配信でーた』『シネマスクエア』等の雑誌や、劇場用パンフレット、映画サイト「シネマトゥデイ」などで記事やレビューを執筆。スターチャンネル「GO!シアター」に出演中。趣味でクラブイベントを主宰。
(c)Photofest / Getty Images