2021.12.24
※本記事は物語の結末に触れているため、映画をご覧になってから読むことをお勧めします。
『センチメンタル・アドベンチャー』あらすじ
舞台は1930年代、大恐慌時代のアメリカ。レッドはうだつの上がらない中年のカントリー歌手。長年の放蕩生活で肺を病み健康状態もままならない彼は、旅の途中、オクラホマで農場を営んでいた姉夫婦を頼る。そこで再会したのが、ミドルティーンに成長していた甥っ子ホイット。自由な生活に憧れ、車の運転もできる彼は、レッドの世話係として旅に同行することに。かくして彼らは、レッドが出場を切望しているカントリー音楽の祭典を目指してナッシュビルへ向かう……。
Index
アクション映画じゃないイーストウッド
監督40作目となる主演兼任の新作『クライ・マッチョ』(21)の公開も楽しみな91歳の巨匠クリント・イーストウッド。半世紀以上に渡りハリウッドの第一線で人気俳優として活躍し、監督としても50年のキャリアの中で2度のアカデミー賞を受賞。そんな彼のフィルモグラフィーの中で、もっとも不遇な扱いを受けたのが『センチメンタル・アドベンチャー』(82)ではないだろうか。
1982年に作られた本作で、イーストウッドは監督・プロデュース・主演を兼任。製作を主導したのは、1967年に彼が設立して以来、関わるほぼすべての作品を手がけてきたマルパソ・プロダクションだ。クランシー・カーライルの原作小説に惚れ込んだイーストウッドはカーライル本人に脚本を依頼し、低予算スタイルで一気に撮り上げる。意欲作ではあったが、当時彼が監督・主演を兼任した作品では全米最低の興行収入を記録してしまった。
『センチメンタル・アドベンチャー』予告
その主たる理由は、作品自体の印象が地味だったから。当時のイーストウッドは押しも押されぬアクション・スターで、同年には監督と主演を兼任した軍事スカイアクション『ファイヤーフォックス』(82)を大ヒットさせていた。そんな彼が、酔いどれで病弱のカントリー歌手を演じるのだから、観客がとまどうのも当然だった。日本の配給会社ワーナー・ブラザースも大いにとまどい、当時新作2本立て上映が当たり前だった地方でのみ、大作の併映作、いわゆるスプラッシュ作品として初公開され、東京の観客は名画座での上映を待たねばならなかった。
現在ならば、アクションではなくてもイーストウッド作品は揺るぎないブランド。そういう意味では、早すぎた映画ともいえる。新作の公開を機に、改めて本作の魅力を探ってみよう。