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ナンシー・マイヤーズ監督『恋愛適齢期』が、ロマンティック・コメディ業界に起こした革命

(c)Photofest / Getty Images

ナンシー・マイヤーズ監督『恋愛適齢期』が、ロマンティック・コメディ業界に起こした革命

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ハリウッドの女性の表象に革命を起こす



 『恋愛適齢期』は、20〜30代の女性が主体となりがちなロマンティック・コメディというジャンルにおいて、中高年の女性の恋愛をリアルに、かつ肯定的に描いた先駆的映画として、フェミニズムの文脈でもしばしば取り上げられる。映画のなかでは、フランシス・マクドーナンド演じる、エリカの妹ゾーイは、大学で女性学を教えるフェミニストとして登場し、「金と名誉を手に入れた男性は歳をとってももてはやされるが、同じように金と名誉を手に入れた同世代の女性はどう扱われるか」という疑問を投げかけ、ハリーを気まずくさせる。ここには、脚本デビュー作『プライベート・ベンジャミン』から、コメディの中にさりげなくフェミニズムを混入させるマイヤーズらしさが発揮されている。


 一方で、必ずしも今の文脈で絶賛される映画とは言いきれない部分もある。ハリウッドのロマンティック・コメディがしばしば陥りがちな問題を、この映画も多分に抱えているからだ。裕福な白人の異性愛者たちが繰り広げる恋愛劇。マイノリティの存在は無きものとされ、結婚というゴールがもっとも幸せなハッピーエンドとして盲信される。『恋愛適齢期』はたしかに構造としてはこの悪しきパターンに当てはまる。



『恋愛適齢期』(c)Photofest / Getty Images


 著名な劇作家で海辺の別荘を持っているエリカ。大ヒット作を次々手がけるレコード会社の社長ハリー。医師として成功しているジュリアン。彼らの世界には金銭的な悩みは存在せず、白人以外の人々は基本的に小さな役でしか登場しない。ただしジュリアン役のキアヌ・リーヴス自身はアジア系の出自を持つ俳優だし、フェミニストのゾーイは明言はされないもののレズビアンとも解釈できる。必ずしも「マイノリティがいない世界」と決めつけるわけにはいかない。


 いくつかの欠点はあるにせよ、『恋愛適齢期』がハリウッドのロマンティック・コメディ業界における大きな革命となったのはたしかだ。ロザンナ・アークエットが監督した『デブラ・ウィンガーを探して』(02)で示されたように、女優が40歳を超えれば恋愛映画のヒロイン役のリストから外されるのが普通、というハリウッドにおいて、当時50代の女優ダイアン・キートンを主演に中年女性の恋愛とセックスを描き、興行的にも批評的にも大成功したこの映画は、歳を重ねた女優が恋愛映画のヒロインになれることを見事に証明してみせたのだ。




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