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「にんげんこわい」斬新な解釈で落語をアップデートした意欲作

「にんげんこわい」斬新な解釈で落語をアップデートした意欲作

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意表をついたアレンジ



 「にんげんこわい」は4つの古典落語を映像化している。その中の一つ、「心眼」を例にとってそのアレンジの意外性を確認してみよう。元になった落語のストーリーはこうだ。


 盲目の按摩である梅喜(ばいき)は、妻のお竹と仲睦まじく暮らしている。しかし彼は盲目であることを弟に馬鹿にされたことから、眼が治るように願掛けをはじめる。その甲斐あってか、ある日梅喜の眼はすっかり治り視力を取り戻す。そこで彼は自分が役者のような色男で、妻は不美人であることを知ってしまう。そして梅喜は以前から彼に思いを寄せていた芸者と浮気をしてしまう。するとそこに妻・お竹が現れ詰め寄る。「裏切りもの!」。首を絞められた梅喜は目を覚ます。全ては夢であった。彼はお竹にこうもらす。「寝ている時のほうが良く見える…」


 落語では笑いを随所に入れながら、梅喜が夢の中で自分の本当の願望を覗き見てしまう恐ろしさを描いている。しかし「にんげんこわい」では、梅喜のこの心情を描きながらも、彼の妻お竹が内に秘めた恐るべき情念も描きこむ。落語ではほんの脇役でしかなかったお竹に、ストーリー上の重要な役割を担わせることで、落語と同じ筋を辿りつつもラストでは思わぬ地点に着地させる。


 このラストは視聴者に何とも名状しがたい、いい意味で居心持の悪い読後感を提供してくれる。こうした感覚は、湊かなえなどに代表される「イヤミス」と呼ばれる作品群から得られるカタルシスに近い。


 ほかの3つの話、「辰巳の辻占」「紺屋高尾」「宮戸川」でも意欲的なアレンジは行われており、中には落語には出てこない人物を新たに設定するという、掟破りすれすれの大胆なアレンジも加えている。これらの意表をついたアレンジが殊に優れていると感じるのは、そこに女性の眼差しが取り入れられているからだ。




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