57歳の頃に『たそがれ清兵衛』(02)でスクリーンデビューして以来、多くの映画で独特の存在感を放ってきた田中泯。だが、彼の踊りを見たことがある人は、それほど多くはないのではないだろうか。映画『名付けようのない踊り』には、田中泯の踊りがしっかりと焼き付けられ、スクリーンの中で踊る田中泯に思わず息を呑む。
本作を手掛けたのは、田中泯が出演した『メゾン・ド・ヒミコ』(05)を監督した犬童一心。犬童監督は、田中泯をどのように捉え、映画として撮りあげたのか? 二人に話を伺った。
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撮ることは昔から決まっていた
Q:『メゾン・ド・ヒミコ』でお二人がご一緒されてから16年以上が経ちます。その当時はこのような映画を作るとは想像されていなかったかと思いますが、映画が完成した今はどんな思いですか?
犬童:こうやっていざ撮ってみると、撮ることが昔から決まっていたような気がしますね。
田中:僕も犬童さんと同じで、いつかは撮ってもらうことになるだろうなと思っていました。正直なところ、それまでは「踊りの記録」というもの自体に納得いかないことも多かったのですが、もし犬童さんが撮ったらそこが変わるかもしれない。何となくそう思っていました。
犬童:最初は長編を作るつもりもなくて、「撮ってみようかな」「どんな風に撮れるのかな」くらいの気持ちでした。ですが、いざ撮り始めてみると「これはすごいものが撮れているぞ」となってくるんです。その後、あえて自分では編集せずに、『るろうに剣心』シリーズなどの編集をやっている今井剛さんにお任せで繋いでもらったのですが、これがすごく面白いんです。踊りをただ繋いだだけなんですけど、観ていて全く飽きないんです。そこで初めて、これを長い映画に出来ないかなと思ったんです。
『名付けようのない踊り』©2021「名付けようのない踊り」製作
ただ、長編にするとしても全体の尺が90分くらいだと、泯さんの踊りを実際に見に行った感覚が作れないと思いました。やるんだったら2時間くらいにする必要がある。90分ってある程度誤魔化しが効くんですよ。泯さんの踊りを再現するというよりは、自分が泯さんの踊りを見ている感覚を再現したい。そのためには2時間必要だなと。踊りの会場に行くところから始まって、そこを出て行くまでの、その体感している感覚を映画でもう一度組み立てたかった。