監督・脚本作『ドライブ・マイ・カー』(21)が、カンヌ国際映画祭で脚本賞をはじめ4つの賞を受賞。同作はニューヨーク映画批評家協会賞では作品賞を受賞し、日本映画としては初めての快挙を成し遂げた。また、共同脚本で参加した黒沢清監督作品『スパイの妻』(20)もヴェネツィア国際映画祭で銀獅子賞を受賞、イザベル・ユペールが仕事をしたい監督として名前を挙げるなど、国際的評価が最高潮に達しつつある濱口竜介監督。その評価の一端にもなった、べルリン国際映画祭で銀熊賞を獲得した『偶然と想像』が、ついに公開される。
短編集である『偶然と想像』は、ミニマムな体制で撮った3つの話で構成される。しかしその内容はミニマムという言葉を超え、映画的な驚きと豊潤さ、そして何と言っても面白さに満ち溢れている。この短編集が国際的評価に至ったのも、誰もが納得する出来栄えだ。 濱口竜介監督はこの短編集に何を込めたのか? 話を伺った。
Index
- 映画で短編を作ってみたかった
- 日常から着想した「偶然」
- 「有りそうで無い」から「無さそうで有る」へ
- 話が進むにつれて上げた「偶然の度合い」
- 企画意図の一つ「仕事をしたい人と仕事をする」
- 心がけているのはクラシックな編集
- 手放したくないこの規模感
映画で短編を作ってみたかった
Q:10月に実施された東京フィルメックスの上映では、随所で笑いが起こっていたようですが、海外の映画祭も含めて観客の反応をみていかがでしたか?
濱口:笑わせようとは一切考えていないし、役者さんもそういう演技はしていません。映画では、何かを一生懸命やっている人たちが出てくるのですが、どこか“ズレて”いる。そういうシチュエーションが笑いを誘うようです。この必ずしも予期していない笑いは、自分の映画だとたまに起こるのですが、今回はその打率がやたら高い印象がありました。
『偶然と想像』©2021 NEOPA / fictive
Q:今回は「濱口竜介短編集」という副題もついています。『ドライブ・マイ・カー』でも、村上春樹の短編がいくつか散りばめられたようなところもありました。「短編」というものに対する思いを聞かせてください。
濱口:小説家が長編と短編を行き来することは普通ですが、映画だとなかなかそうはいかない。村上春樹さんは、短編でやったことを長編でもう一度練り直すようなことをされていて、短編がある種の試金石になっていたり、自分の貯まっているものを整理するような場になったりしていますよね。自分もそういう場を持ちたいと思っていたのですが、映画で短編を作るのはなかなか難しい。出口(上映の機会)があまりないんです。でも、短編集という風にしてしまえば、それが随分世に出やすくなる。それで今回はこのようにやってみました。
Q:だから「オムニバス」ではなくて「短編集」なんですね。
濱口: 「オムニバス」というと、世代的に「世にも奇妙な物語」が浮かぶんです(笑)。まぁ、言いようですね。「オムニバス」と「短編集」どちらにせよ共通したテーマがない限りは“括る”ということができない。結局どちらが正しい言い方なのかわからないですけどね(笑)。また、「オムニバス」というと個々の関連性が薄い印象が個人的にありまして、それで「短編集」という言い方が今回はしっくりきたんです。