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『偶然と想像』濱口竜介監督 「有りそうで無い」ものから「無さそうで有る」ものへ【Director’s Interview Vol.170】

『偶然と想像』濱口竜介監督 「有りそうで無い」ものから「無さそうで有る」ものへ【Director’s Interview Vol.170】

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手放したくないこの規模感



Q:『ドライブ・マイ・カー』や『寝ても覚めても』(18)とも共通するのですが、出てくる人間たちとはいつも一定の距離を置いて、カメラが見つめ続けている印象があります。非常に客観性を感じて、それが面白いところでもあります。


濱口:極端に近づかず、本当にただ撮っているだけ、だからでしょうか。基本的に役者さんから出てくるものが一番強いと思っているので、それを感じ取れるようにするには、極力一定の距離感で見つめていた方がいい。そうすることで、細かな感情的なニュアンスや変化を観客が感知できることになる。だから、常に状況や表情などが一番よく見えるようなところにカメラを置いて、頻繁に動かしたりはしないんです。


また、音楽に気持ちを代弁させるといった、ポストプロダクションで寄り添わせるような演出もあまりしてないですね。


Q:そのスタンスは昔から一貫されているのでしょうか。


濱口:ちゃんと出来るようになった気がするのは『ハッピーアワー』(15)以降ですが、元々ある志向だと思います。基本的には目の前で流れ去っていくものを見つめている感じです。それが客観的、という印象になるのかもしれません。特別な事をしている意識はないですね。「カメラってそもそも、そういうものじゃないですか」という気がします。


Q:プレスリリースで「このスタイルをライフワークとしたい」とおっしゃっていましたが、ご自身はこのシリーズのどんなところに惹かれたのでしょうか?


濱口:ポイントしては、まず短編は始めやすいというのがあります。スモールサイズの撮影隊なので機動力が非常に高いですし、コストも低減できるし、だからこそ時間もかけられる。これを長編の大きなチームでやろうとすると、この感じはなかなか出ない気もします。この風通しの良さみたいなものを活かして、チャレンジをする場にしていきたいなと。そしてこのチャレンジしたことが、より大きなチームでやる時の判断基準にもなる。今回やってみて、より一層この規模感は手離したくないものになりました。



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監督・脚本:濱口竜介

1978年神奈川県生まれ。2008年、東京藝術大学大学院映像研究科の修了制作『PASSION』がサン・セバスチャン国際映画祭や東京フィルメックスに出品され話題を呼ぶ。その後は日韓共同制作『THE DEPTHS』(10)、東日本大震災の被害を受けた人々の「語り」をとらえた『なみのおと』、『なみのこえ』、東北地方の民話の記録『うたうひと』(11~13/共同監督:酒井耕)、4時間を超える虚構と現実が交錯する意欲作『親密さ』(12)などを監督。15年、映像ワークショップに参加した演技経験のない4人の女性を主演に起用した5時間17分の長編『ハッピーアワー』が、ロカルノ、ナント、シンガポールほか国際映画祭で主要賞を受賞。商業映画デビュー作『寝ても覚めても』(18)がカンヌ国際映画祭コンペティション部門に選出され、共同脚本を手掛けた黒沢清監督作『スパイの妻〈劇場版〉』(20)ではヴェネチア国際映画祭銀獅子賞に輝く。本作『偶然と想像』は第71回ベルリン国際映画祭にて銀熊賞(審査員グランプリ)受賞。一足先に劇場公開された『ドライブ・マイ・カー』(21)では、第74回カンヌ国際映画祭にて脚本賞に加え、国際映画批評家連盟賞、AFCAE賞、エキュメニカル審査員賞も同時受賞。今、世界から最も注目される映画作家の一人として躍進を続けている。 (生年月日:1978年12月16日、現在42歳)



取材・文: 香田史生

CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。


撮影:青木一成




『偶然と想像』

12月17日(金)Bunkamuraル・シネマほか全国ロードショー!

©2021 NEOPA / fictive

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