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「にんげんこわい」斬新な解釈で落語をアップデートした意欲作

「にんげんこわい」斬新な解釈で落語をアップデートした意欲作

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女性脚本家が可能とした大胆なアレンジ



 落語という芸能は(他の多くの伝統芸能にもあてはまるが)男性中心的である。かつて女性の噺家は存在せず、古典落語が男性の噺家によって発展してきた歴史もある。だからなのか、登場人物に女性はいても、それはあくまで男性から見た女性であり、男性にとって都合の良い存在として描かれることも多かった。筆者は全ての古典落語を聞いたわけではないが、落語の世界の女性は、若い娘なら気立てが良く親思い、女房なら旦那を尻に敷く勝気な性格ながらも男を陰で支える賢く健気な妻、といったキャラクターが多いのではないだろうか。


 立川談志は「落語とは、人間の業の肯定である」と喝破した。人間は弱くてずるい。酒も飲みたいし、浮気もしてしまう。博打も打つし、ケチでもある。そんな人間の欲望や劣情を否定せず、すべてをひっくるめて暖かく描く人間賛歌が、落語であるという。この指摘は正鵠を射ている。しかし、その「業」とは男のものであり、女性はその業によって被害をこうむる役割りや、良妻賢母というステレオタイプの中に押しこめられてきた側面があったこともまた否定できない。



WOWOWオリジナルドラマ「にんげんこわい」


 「にんげんこわい」では、落語でステレオタイプに押し込められた女性たちが、自らの「業」を極限まで開放する。その描写はサイコスリラーの領域にまで達し、本作を落語とは一味違うエンターテインメントとして構築することに成功している。こうしたユニークなアレンジを可能としたのは、4人の脚本家、首藤凜、山田由梨、ぺヤンヌマキ、舘そらみという女性たちの力があってこそだろう。


 立川談志はその著書「現代落語論」において、若手の噺家が、先達の演じた落語にアレンジを加える必要性を説いている。


 「自分の特異な技術をくわえ、特徴を生かし、ギャグを入れ、場合によっては人物の性格を変え、落げ(※結末)まで変えてみるくらいの演出力が必要で、これをその人なりに完成したとき、同じ噺でも先代たちの残した作品とくらべてみることができうる。」(※)は筆者注


 「にんげんこわい」は現代の表現者たちが、名作落語に切り込んで工夫と演出をこらし、「人物の性格を変え、落げまで変えて」我々に提示した、落語というエンタメの最新形だろう。だからこそ、原作の古典落語を聞き、比較してご覧になることをお勧めする。そうすれば、本作が古典落語になかった形で提示した人間の「業」を、たっぷりと味わいつくすことができるはずである。


参考文献:立川談志著「現代落語論」(三一新書)



WOWOWオリジナルドラマ「にんげんこわい」

2/6(日)午後11:00スタート 

(毎週日曜/全5回)WOWOWプライムで放送

番組情報はこちら

WOWOWオンデマンドでアーカイブ配信あり

無料トライアル実施中!



文:稲垣哲也

TVディレクター。マンガや映画のクリエイターの妄執を描くドキュメンタリー企画の実現が個人的テーマ。過去に演出した番組には『劇画ゴッドファーザー マンガに革命を起こした男』(WOWOW)『たけし誕生 オイラの師匠と浅草』(NHK)『師弟物語~人生を変えた出会い~【田中将大×野村克也】』(NHK BSプレミアム)。



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