多くの映画監督からの絶賛コメントで溢れる映画『さがす』。スリラー映画でここまでの衝撃を受けたのは、デヴィッド・フィンチャーの『セブン』(95)や、ポン・ジュノの『母なる証明』(09)以来かもしれない。鑑賞後は唸るばかりで、もはや言葉が出てこない。これほど上質なスリラー映画をまた観られる日が来るとは…。しかも日本映画で…。
手掛けたのは、業界を激震させた自主映画『岬の兄妹』(18)で鮮烈なデビューをかざった片山慎三監督。本作は片山監督、満を持しての商業デビュー作となる。この圧倒的に面白い映画をどのように作り上げたのか? 監督本人に話を伺うと、その言葉の端々から徹底的に計算された映画術を垣間見ることができた。
※本記事はネタバレなしのインタビューですが、鑑賞前に余計な情報を入れたくない方は、映画をご覧になってから読むことをお勧めします。
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リレー方式で作り上げた脚本
Q:映画『さがす』は、練りに練られ、詰めに詰められた、圧倒的な強度と完成度を誇るエンターテイメントになっていました。企画立ち上げから完成まで、どれくらいの期間で作られたのでしょうか?
片山:『岬の兄弟』の公開時に、プロデューサーの山野晃さんから声を掛けていただきました。それが2019年の2月です。その後クランクインしたのが2021年の2月なので、その間の約2年は脚本を書いていました。
Q:片山監督の他に、小寺和久さん、高田亮さんと、3人共同で脚本を執筆されています。どのような作業分担で進められたのでしょうか。
片山:まず企画の段階で自分が短いプロットを書き、それを元に高田さんと山野プロデューサーとで脚本づくりを始めました。最初に僕が書いたプロットは娘のパートまでだったので、その先をどう展開させていくかは、3人で話し合いながら作っていきました。高田さんに書き手になってもらい、上がってきた脚本に対して色々と意見を出し、それを反映してもらいました。それで出来たのが初稿です。
『さがす』©2022『さがす』製作委員会
初稿は親子の話に特化していて、完成した映画と比べるとまだ少し趣旨が違っていました。あくまで、親子と殺人犯の戦いみたいなことで終わっていたんです。ただ「それもどうかな」と、あまりしっくりはきていませんでした。その後、自分に別の撮影が入ったりして、その間、脚本は一時寝かせておいたのですが、山野さんからも今ひとつ衝撃が足りないと指摘があり、そこから色々と考えて、今(完成した映画)のアイデアを思いついたんです。
ただその時は撮影中だったので、そこで小寺さんにも入ってもらい、そのアイデアを伝えつつ、改稿してもらいました。そこからやりとりが始まって、結局10稿くらいまで書き続けましたね。その後最終稿ができて、キャスティングなども始まったのですが、また更にそこから自分で修正して、やっと今の形になりました。だから作業分担としては、リレー方式と言うのが一番合っているかもしれません。