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『Dr.パルナサスの鏡』 巨匠ギリアムと仲間たちの奮闘によって完成した、ヒース・レジャー最期の作品

(c)Photofest / Getty Images

『Dr.パルナサスの鏡』 巨匠ギリアムと仲間たちの奮闘によって完成した、ヒース・レジャー最期の作品

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検証すると見えてくる”不可思議な響き”を持ったセリフたち



 ギリアムは、「鏡の中に入ると顔が変わる」という設定を成立させるために幾つかの微調整を行ったものの、脚本上のセリフに関しては最初からほとんど変えていないという。このことを踏まえて改めて作品を検証すると、本作には不思議な意味合いを帯びた言葉がいくつも見つかる。


 例えば劇中で、パルナサス役のクリストファー・プラマーは「この世界では、我々以外にも他の誰かが物語を紡いでいる。巨編、ロマンス、予期せぬ死の物語・・・なんであれ、語り続けることでこの世を持続させている。物語を止めることなんて誰にもできないのだ」と口にする。


 一方、ジョニー・デップが登場する場面では、死者の追悼ともいうべき描写が盛り込まれ、「彼らは死してもなお不滅だ。もう何も恐れることはない。彼らは永遠の若さを手に入れたのだから」というセリフが飛び出す。


 また別の箇所では、崩壊した舞台を目にしたヒース・レジャー本人が「保険でなんとかするってのはどう?」とアドリブを飛ばしたり、はたまた仮面を装着した彼に対してヒロイン役が「名前をなくし、顔も失った・・・謎は深まるばかりね」とささやく場面もある。いずれも初めから脚本に書いてあったものとはいえ、我々の側からしてみればその偶然性にハッとせずにいられない。



『Dr.パルナサスの鏡』(c)Photofest / Getty Images


 また、ヒースの死によって完全に機能しなくなったように思われたシーンでも、自ずと適切な解決策が舞い降り、それを実践した結果、当初より格段に良い仕上がりとなることが少なくなかったとか。ギリアムはこういう超常的な出来事に触れるにつけ、まるでレジャーの魂が現場にいて、共同監督となって本作を導いてくれているかのような気持ちに包まれたという。


 ギリアムだけではない。おそらく本作に参加した代役3人をはじめとするキャストやスタッフ全員が、少なからず同様の気持ちを抱えながら奔走し続けたに違いない。それゆえ、本作のエンドクレジットでは、監督名や俳優名、ましてやプロデューサー名でもなく、何よりも真っ先に次のような表記が大写しになる。


 「A Film from Heath Ledger & Friends」


 これほど思いがけない道のりを歩んで完成した作品は他にあるだろうか。人知を超えたカリスマ性で観客を魅了したヒース・レジャーの最期の姿は、かくして映像の中に深く、そして永遠に刻み込まれたのである。


参考:

https://edition.cnn.com/2009/SHOWBIZ/Movies/12/17/terry.gilliam.interview/index.html

https://www.barbican.org.uk/read-watch-listen/screentalks-archive-terry-gilliam-on-the-imaginarium-of-dr-parnassus

『Dr.パルナサスの鏡』ブルーレイ(発売元:ジュネオン・ユニバーサル)音声解説



文:牛津厚信 USHIZU ATSUNOBU

1977年、長崎出身。3歳の頃、父親と『スーパーマンII』を観たのをきっかけに映画の魅力に取り憑かれる。明治大学を卒業後、映画放送専門チャンネル勤務を経て、映画ライターへ転身。現在、映画.com、EYESCREAM、リアルサウンド映画部などで執筆する他、マスコミ用プレスや劇場用プログラムへの寄稿も行っている。 



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