(C) 1979 The Brood Films Inc. All rights reserved
『ザ・ブルード/怒りのメタファー』自身の経験を映画に⁉︎ 鬼才クローネンバーグが激念を込めた傑作 ※注!ネタバレ含みます。
2022.05.03
ホラーの枠に収まらないアーティスティックな力作
クライマックスでは、ノーラが生んだ怪物たちからキャンディスを守ろうとする、フランクの必死の奔走が展開。ノーラによる怪物たちの“出産”場面は、まさにクローネンバーグの独壇場だ。肉体の変異の生々しさ、グロテスクさ、その粘着質な感触。ビジュアル的に衝撃的な場面はスプラッター・シーンを含めていくつかあるが、もっともクローネンバーグらしさが発揮されたのは、このシーンだろう。
中でも、ノーラが生まれたての怪物を舐めまわして血を拭きとる場面は、多くの観客の脳裏に焼き付くに違いない。実はこの場面は、北米公開時に過激過ぎるとしてカットされた。これに対してクローネンバーグは怒りをあらわにした。「性的でも、暴力的でもない。単に粘着質で不快なだけじゃないか。あのシーンをカットしたお陰で、映画全体が台無しになってしまった」もちろん現在では、彼の意図したかたちでこの映画を見ることができる。
『ザ・ブルード/怒りのメタファー』(C) 1979 The Brood Films Inc. All rights reserved
本作、そして続く『スキャナーズ』(81)の世界的な成功により、クローネンバーグはホラーの鬼才として広く認められることになった。しかし、決してホラーを撮っているという意識はないと振り返る。「私の映画は、他人がホラーに分類しようと、SFに分類しようと構わないが、つねにキャラクターのドラマだ。こういうジャンルが特殊であると考えたことはないし、逆にジャンルから遠ざかろうとも思わない。クリエイティブな作業の過程で生まれたものに過ぎないんだよ」自身の苦しい体験を投影し、その狂おしい気持ちをビジュアルに反映しつつ、作りたいドラマを作った。『ザ・ブルード/怒りのメタファー』はホラーであると同時に、クローネンバーグが自己の内面を掘り下げたアーティスティックな力作でもあるのだ。
この後、クローネンバーグは前妻との離婚を経て、映画製作者のキャロライン・ジフマンと再婚。彼女が亡くなる2017年まで連れ添った。監督として活躍目覚ましいブランドン・クローネンバーグは彼女との間に生まれた息子だ。また、前妻との間で親権争いの対象となった娘カサンドラは成長した後、『裸のランチ』(91)『クラッシュ』(96)など父の多くの作品に製作スタッフとして関わっている。
参考:
「クローネンバーグ オン クローネンバーグ(映画作家が自身を語る)」クリス ロドリー(編集), Chris Rodley(原著), 菊池 淳(翻訳) フィルムアート社
文:相馬学
情報誌編集を経てフリーライターに。『SCREEN』『DVD&動画配信でーた』『シネマスクエア』等の雑誌や、劇場用パンフレット、映画サイト「シネマトゥデイ」などで記事やレビューを執筆。スターチャンネル「GO!シアター」に出演中。趣味でクラブイベントを主宰。
『ザ・ブルード/怒りのメタファー』
2Kレストア特別版 Blu-ray:6,380円(税込)
発売元:是空/TCエンタテインメント
販売元:TCエンタテインメント
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