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『裸のランチ』クローネンバーグ流“変態”的世界の極みは、こうして生まれた!
『裸のランチ』あらすじ
ニューヨークで害虫駆除員をしているウィリアム・リーは、ドラッグでハイな気分になったまま≪ウィリアム・テルごっこ≫で妻を殺してしまう。彼は麻薬の力に導かれ、謎の都市≪インターゾーン≫へと逃げ込むが、そこは奇怪な人々がうごめく不思議な街だった。混沌と眩惑のなかでリーは次第に自分を見失い、奇妙な“陰謀”に巻き込まれてゆく…。
Index
- 鬼才・クローネンバーグが生み出す強烈な描写
- シュールな名著のビジュアル化に挑む
- 原作者バロウズの人生と創作の秘密に迫る試み
- 映画の方向性を変えた、歴史的な事件とは!?
- 誰も無関心ではいられないイビツな世界
鬼才・クローネンバーグが生み出す強烈な描写
デビッド・クローネンバーグというと、今や殿堂入りの名匠……という印象を、映画ファンは抱かれるのではないだろうか。妥協のない姿勢で独自のスタイルを確立し、フィルムメーカーの尊敬を集めるカナダの鬼才。伝統のカンヌ国際映画祭で審査員長を依頼されたこともあるのだから、実際、鬼才と呼んでもまったく差し支えない。
一方で、古くからのファンにとってクローネンバーグの映画は、誤解を恐れずに言えば”変態”的という印象が少なからずある。そもそもはホラーの気鋭として注目を浴びた監督だ。サディスティックだったり、マゾヒスティックだったりと、グロい描写にはとにかく容赦なく、『スキャナーズ』(81)の人間の頭部が破裂する場面は今見てもゾッとする。
『スキャナーズ』予告
ハリウッドのメジャースタジオと組んだ代表作『ザ・フライ』(86)にしても肉体の変容の描写は強烈だった。皮膚感覚でコワいというより、内臓感覚・細胞感覚でコワいと言うべきか。それはもちろん、体の中だけでなく、心の中をえぐるような鋭い心理描写があってこそ活かされる。
そんなクローネンバーグの”変態”の極みをひとつ挙げるとすれば、『裸のランチ』(91)に尽きる。なにしろ、映画不可能とされてきたウィリアム・S・バロウズの同名小説の映像化なのだから、普通の娯楽映画の枠に収まるはずがない。この怪作がどのようにして生まれたのかを、改めてここに振り返ってみよう。