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『スキャナーズ』作家性と大衆性を融合させたクローネンバーグのターニングポイント

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『スキャナーズ』作家性と大衆性を融合させたクローネンバーグのターニングポイント

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※本記事は物語の核心に触れているため、映画をご覧になってから読むことをお勧めします。


『スキャナーズ』あらすじ

ショッピングセンターで女性客に蔑まれた無口な放浪者キャメロン・ベイル(スティーヴン・ラック)、彼が悪意の目で女性を睨むと彼女はもがき苦しみ卒倒してしまう。警備会社コンセック社に連れ去られたベイルは自分がスキャナーと呼ばれる超能力者であることを知らされる。その頃別のスキャナー、レヴォック(マイケル・アイアンサイド)がコンセック社の会議場で人の頭部を破裂させるという事件が起こる。レヴォックは自らの能力を使いスキャナーによる世界征服を企んでいた。コンセック社の要請でレヴォック殺害を命じられたベイルは、女性スキャナー、キム(ジェニファー・オニール)と共に追跡するが、そこには自分とレヴォックにまつわる恐ろしい秘密が隠されていた・・・。



 カナダ最大の都市であるトロント。冬は空気が乾燥し気温も氷点下を下回る日が続き、10月から4月までは積雪も多くあるそうだ。しかし、夏は湿度が高く、気温も35°を越える事もあるとのこと。カナダで生まれ育ち、カナダで映画を作ってきたデヴィッド・クローネンバーグの作品は、硬質で冷たい印象の風景の中で、ネトネトと湿度の高い体液と内臓が溢れる、カナダの冬と夏が融合したような情景を観せてくれる。


Index


『スキャナーズ』と実際にあった人体実験



 人の考えが頭の中に「流れ込んで」しまう「スキャン能力」を持っているせいで、社会生活が送れず世捨て人のように街をフラつくベイル。ショッピングセンターのフードコートで残飯をあさっていたところを、要人警護会社コンセック社に捕らえられる。コンセック社で超能力者「スキャナー」の研究をするルース博士は、ベイルの「スキャン能力」を買って、ある依頼をする。以前、コンセック社の研究発表の場で、強力なスキャン能力だけで人間の頭部を爆破して去っていった強力なスキャナー、レボックの企みを止めて欲しいと言うのだ。ベイルは色んなスキャナーを訪ねながらレボックを追っていくのだが、その過程でベイル自身の出自も含めた、コンセック社の大いなる陰謀に近づいていく。


 『スキャナーズ』(81)で描かれる、コンセック社の超能力実験はフィクショナルな、いかにもSF的なものだが、史実に着想を得ている。1950年代。第二次世界大戦が終結し、米ソは直接対決の無い冷戦時代に突入。アメリカは第二次大戦中にナチス・ドイツが行った非人道的な実験を指揮した科学者たち(戦争犯罪者も含む)を召喚することで実験データを掠め取ることに成功する。


『スキャナーズ』予告


 加えて、朝鮮戦争において北朝鮮側(中国共産党軍)に捕虜として囚われた兵士が共産主義者として洗脳されたことに着目し、ナチスの実験データをベースに、薬物を用いたマインド・コントロール/洗脳実験を始める。このプロジェクトは「MKウルトラ計画」と名付けられた。自白剤を使用したソ連のスパイへの尋問。妊婦への投薬による赤ん坊への影響実験。超音波を利用した記憶の消去実験。これら非人道的な実験が被験者の同意無く勝手に行われた。


 その実験の中には70日以上LSDを投与し続けるといった、凄惨を極めた拷問実験もあった。当然、被験者は実験により精神を破壊され、廃人となる者を生みだした。むごたらしい被害者を出したMKウルトラ計画は、後年のCIA長官により資料を破棄させられる。この資料破棄によって「MKウルトラ計画」は残酷でミステリアスな概要以外、全てを失ってしまう。これが多くのクリエイターたちの創作意欲をかきたてることとなった。


 「洗脳/マインド・コントロール」「人権無視の非道さ」「人体実験」「証拠破棄」…… これらフィクション映えする要素は様々な創作物に取り込まれていく。洗脳実験は『ボーン・アイデンティティ』(02)や『エージェント・ウルトラ』(15)を始め、様々なスパイ映画やサスペンス映画へ。実験により精神を破壊された人々は『陰謀のセオリー』(97)『RED/レッド』(10)などに登場。そして、妊婦に対する薬物投与実験は『炎の少女チャーリー』(84)『スキャナーズ』に影響を与えた。



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