『スキャナーズ』作家性と大衆性を融合させたクローネンバーグのターニングポイント

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2021.04.26侍功夫

アメリカでの成功

　『スキャナーズ』は一筋縄にはいかない展開や演出。概念の具象表現。サッパリするようなエンディングとは程遠い、憂いを残す終わり方など。クローネンバーグらしい演出や展開に溢れている。その一方で派手なカークラッシュや発火スタント、そして頭が爆発するキャッチーな見所にも溢れており、前衛と大衆性を「融合」させた作品になっている。そんな混沌とした魅力で、アメリカ公開週に業界誌「ヴァラエティ」のヒットチャートで1位を獲得する。

　本人曰く、公開週にライバルとなる大作などが無かった幸運と、宣伝を担当した会社の戦略が良かったと謙遜しているが、何はともあれ「1位」を取った既成事実が残り、クローネンバーグの名は頭の爆発と共に、多くの人々に記憶された。

　名を売ったクローネンバーグは企画が通り易くなり、続く『ヴィデオドローム』は、深く哲学的かつ極めてアバンギャルドな作品となり、多くの観客を突き放してしまう。しかし、アンディ・ウォホールを始めとする先鋭的なアーティストたちに熱狂的に受け入れられ、現在ではカルト作としての地位を絶対的なものにしている。さらに、雇われ監督としてスティーブン・キング原作の『デッド・ゾーン』（83）や『ザ・フライ』といった大作まで手がけるようになり、ハリウッドのトップ・ディレクターの一人となり、現在に至っている。

　『スキャナーズ』は強い個性を発揮しながらポピュラリティも得た作品として、クローネンバーグのフィルモグラフィの中でも重要な、ターニング・ポイントになった作品と言えるだろう。

文：侍功夫

本業デザイナー、兼業映画ライター。日本でのインド映画高揚に尽力中。

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