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『スキャナーズ』作家性と大衆性を融合させたクローネンバーグのターニングポイント

(C) 1980 Filmplan International Inc. All rights reserved

『スキャナーズ』作家性と大衆性を融合させたクローネンバーグのターニングポイント

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見事すぎる「頭爆発」シーン



 映画の名場面や俳優のクセのある表情などの短いgif動画。いわゆるインターネット・ミームの一つに、デスクに座った人物の頭部が唐突に爆発する動画がある。これは『スキャナーズ』序盤のワンシーンだ。この場面はテレビなどでも繰り返し放映されていたので、映画を観ていなくても、この「頭爆発」シーンだけは見かけた人も多いだろう。


 この名場面には特殊メイク界で絶大な影響力を持つディック・スミスがクレジットされているが、実際のところディックは「相談役」のような立場で、現場で造形や操作を担当したのは、後にクローネンバーグの『ザ・フライ』(86)でアカデミー賞メイクアップ賞を受賞するクリス・ウェイラスとステファン・デュプイのようである。



『スキャナーズ』(C) 1980 Filmplan International Inc. All rights reserved


 この場面では何度も試作とテストが繰り返されたそうだ。まず石膏で作った頭部を爆破してみたが、文字通り石膏像が爆発したようにしか見えずボツに。続いて蝋で型どった頭部を爆破してみると、血や内容物の飛び散り具合などは良かったが、今度は蝋人形が爆発したように見えてボツ。最終的に、石膏で「頭蓋骨」の器を作り、ゼラチンで覆い、中にラテックスの切れ端、赤く着色したシロップ。ついでに食べかけのハンバーガーなどを入れ、蝋で封をしたものが撮影で使用された。


 また、爆発の仕方も火薬を仕込んで爆発させた場合、内部から火花が飛んでしまうため「超能力」で爆破したように見えず却下された。他にも風船のように膨らませて爆発させるなどのアイデアが試されたが、最終的にショットガンで机の下から撃ち抜くという物騒な手段が採用された。


 それら試行錯誤の末に仕上がったシーンはクローネンバーグを大満足させたが、見事過ぎる仕上がりにプロデューサーは怖気づき「もう少しソフトな爆発にならないか?」と再撮影を求め、実際に何度か再撮影がされたようだ。当のクローネンバーグは「もう欲しいカットは撮れているから」と、にべもなく現場を去っていったそうだ。




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