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『フランティック』異邦人が光と闇のパリを往還する、ヒッチコック的スリラー

(c)Photofest / Getty Images

『フランティック』異邦人が光と闇のパリを往還する、ヒッチコック的スリラー

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「自己崩壊系サイコ・スリラー路線」から「巻き込まれ型サスペンス路線」へ



 ロマン・ポランスキー作品には、都市型スリラーの系譜がある。ロンドンのアパートで姉と暮らすキャロル(カトリーヌ・ドヌーヴ)が、男性恐怖症をこじらせてサイコパス化する『反撥』(65)。ニューヨークのアパートに引っ越ししてきた新妻のローズマリー(ミア・ファロー)が、悪夢のような体験にさらされる『ローズマリーの赤ちゃん』(68)。パリのアパートの一室を借りた青年トレルコフスキー(ロマン・ポランスキー)が、狂気に囚われて投身自殺した女性と“同化”していく『テナント/恐怖を借りた男』(76)。


 大都会の片隅で、コミュニティに馴染めない“異邦人”が現実と空想の境目を見失っていく物語は、ポランスキーの十八番。幼少期にポーランドのユダヤ人隔離居住区から脱出し、ナチスから身を隠してヨーロッパ各地を転々とした彼にとって、異邦の地でもがき苦しむ映画の主人公たちは、ポランスキーその人の投影なのだろう。『テナント/恐怖を借りた男』の主役を彼自身が演じているのは、その証左だ。


『フランティック』予告


 『フランティック』(88)もまた、その系譜に連なる作品と言っていいだろう。学会に出席するため、愛妻サンドラ(ベティ・バックリー)を連れてパリにやってきた医師のリチャード(ハリソン・フォード)。突然妻が行方をくらましてしまい、その行方を追い求めて、彼は言葉も通じない見知らぬ土地で右往左往する。


 だが、本作はそれまでの都市型スリラーとは決定的な違いがある。タイトルの『Frantic(フランティック)』は“半狂乱”という意味だが、ハリソン・フォードは危機的状況に陥っても強靭な精神力を発揮。カトリーヌ・ドヌーヴやミア・ファローが演じてきたキャラクターとは異なり、決してダークサイドへと身を落としたりはしない。この題名では誤解を招くと考えたハリソン・フォードが、ポランスキーに『Moderately Disturbed(中程度の乱れ)』というタイトルを提案した、という逸話も残されているくらいだ。


 『フランティック』はこれまでの「自己崩壊系サイコ・スリラー路線」から、『知りすぎていた男』(56)や『北北西に進路を取れ』(59)に代表される「巻き込まれ型サスペンス路線」へと舵を切った、極めてヒッチコック的な王道スリラーなのである。




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