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『インサイダー』ジャーナリズムが後退する瞬間を捉えた骨太な社会派ドラマ

(c)Photofest / Getty Images

『インサイダー』ジャーナリズムが後退する瞬間を捉えた骨太な社会派ドラマ

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実在の人物たちのキャリア



 クリストファー・プラマーが演じるマイク・ウォレス(注:字幕ではウォーレスだが、一般表記はウォレス)はアメリカの国民的なキャスターとして親しまれ、約70年のキャリアを歩んだ。1930年代~40年代にかけて、ミシガン州のラジオ局のニュース・キャスター兼台本執筆者となり、40年代後半からはCBSラジオのアナウンサーとなりゲーム番組の司会者だった。フィリップ・モリス社のタバコ、パーラメントのコマーシャルに出演していたこともあった。テレビ時代に入るとインタビュー番組にも参加し、68年からはCBSの看板ニュース番組「60ミニッツ」の初代特派員となり、この番組には2008年までかかわった。


 この番組のプロデューサーだったローウェル・バーグマンは、ABCニュースとCBSの「60ミニッツ」のプロデューサーをつとめ、98年には後者の番組を去っている。“ニューヨーク・タイムズ”の仕事をしていたこともあり、カリフォルニア大学バークレー校のジャーナリズム大学院で教鞭をとったこともあった。ピュリッツアー賞をはじめ、数多くの賞も受賞している。


 ウォレスやバーグマンが参加していたCBSの番組「60ミニッツ」は1968年~2008年にかけて放映され、硬派の報道番組として人気を博した。しかし実際に放送されたワイガンドのインタビューは、タバコ業界の圧力に屈して、最初は告発者の顔を消して音声も変えた編集版が流れた。95年11月22日のことである。オリジナル版が流れたのは75日後の96年2月4日だった。



『インサイダー』(c)Photofest / Getty Images


 この「60ミニッツ」の日本放映権を持っていたのはTBSで、「CBSドキュメント」と題され、88年10月から2010年3月まで放映され、その後はTBSニュースバードで後継番組「CBS60ミニッツ」となり、10年4月~14年3月まで続いた。ワイガンドの出演した回は日本でも96年3月31日に放映されている。『インサイダー』の劇場プログラムに番組のキャスターだったピーター・バラカン氏の証言が出ているので、それを抜き出すと―――。


 「ジェフリー・ワイガンド氏がタバコ会社を告発する映像を見たのは96年のこと。映画の通り、マイク・ウォレスのインタビューに応える形でした。その2、3週間前にウォーレスが放送で語っていたんですよ。こういう告発映像があるんだけれども、それを放映するとタバコ会社からCBSが告訴される恐れがある、それでCBSの上層部から放送することはできないと言い渡された、と。会社の上層部と現場の判断との間に食い違いがあることを、公然と語った。前代未聞だと思いました。また、そんなふうに腰が引けるなんてCBSらしくないとも思いました。(中略)告発映像を見た時は、「やった!」っていったら大げさだけど、放送できてよかったと思いました」


 劇中でもCBS上層部と「60ミニッツ」の関係者の激しい対立が描かれ、ドラマとしては大きな見せ場となっている。この番組に告発者として出演したジェフリー・ワイガンドはニューヨークの出身で、89年に全米で3位の売り上げを誇り、ケンタッキー州ルイビルにあったタバコ会社、ブラウン・アンド・ウィリアムソンに入り研究開発担当副社長となるが、93年に解雇されている。


 そして、デュポン・マニュアル・マグネット・ハイスクールの教師となり、96年にはケンタッキーのティチャー・オブ・ザ・イヤーにも選ばれる。また、カナダ、フランス、ドイツ、スコットランド、日本など、各国でレクチャーも行っている。ワイガンドとラッセル・クロウの顔立ちは似ていないが、番組に出演した時の表情などは本人に似せてあり、クロウが役を研究したことがよく分かる。





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