1. CINEMORE(シネモア)
  2. 映画
  3. 心と体と
  4. 『心と体と』不器用なすべての大人に寄り添う、不思議な恋愛物語
『心と体と』不器用なすべての大人に寄り添う、不思議な恋愛物語

『心と体と』不器用なすべての大人に寄り添う、不思議な恋愛物語

PAGES


主演女優、映像、世界観すべてが美しい



 『心と体と』のオープニングは、雪が静かに降り積もる森の中を歩く雄と雌の鹿のシーンで幕を開ける。鹿のペアが出てくる場面は、職場や自宅で過ごす登場人物たちの場面と、クロスカッティングの手法で交互に描かれる。精神分析医の聞き取りにより、これらの鹿のシーンは、マーリアとエンドレが同時に見ていた夢だと判明。これをきっかけに、2人の距離は近づいていく。


 感情がほとんど顔に表れず、他人とのコミュニケーションが不得手なマーリアの個性が明らかになってくると、ボルベーイの整った美貌ががぜん活きてくる。一見すると冷ややかなマーリアの表情の奥に、静かに湧き出ているであろう感情の動きを、なんとか読み取ろうと観客は目を凝らす。それはもしかすると、相手の目に、表情に、自分への好意のしるしを期待して探す、恋の始まりに似た感覚かもしれない。




 薄暮れの森、清潔感に満ちた食肉処理場、シンプルで掃除の行き届いたマーリアの自宅など、端正な映像も特筆に値する。マーリアが言葉や表情で自分を伝えないぶん、すっきりしたデザインのインテリアや、きちんと配置された食器や調味料入れといった小物を映すことで、彼女の個性を観客に示す効果もある。マーリアにとって他人との身体的な接触がコミュニケーションの壁になっているが、彼女の感覚、特に触覚を観客に想像させるクローズアップ映像の演出が巧みだ。




 『心と体と』は大人のおとぎ話でもある。鹿になって森を駆けめぐる夢を同時に見たことがきっかけで、男と女が接近するという設定はもちろんファンタジックだが、それだけではない。映画の現実のパートでは、不適切なこと、望ましくないことも起きる。誤解、盗難、嘘、不倫、流血。エンドレから刑事にはワイロのようにステーキ用の肉が贈られる。それでも、彼らは思いやりと歩み寄りでそうした問題を乗り越え、大過なく日々を生きる。それはきっと、現実の社会や人間関係がそうであったらいいという監督の願いであり、映画の優しい世界観なのだ。



PAGES

この記事をシェア

メールマガジン登録
  1. CINEMORE(シネモア)
  2. 映画
  3. 心と体と
  4. 『心と体と』不器用なすべての大人に寄り添う、不思議な恋愛物語