獣人=Geekに込められた思い
『ナイトメア・アリー』のキャストには実力派俳優たちが揃ったが、彼らの持ち味が生かされつつ、新たな魅力が引き出されたことも実感できる。リリス役、ケイト・ブランシェットの妖艶かつ挑発的な演技には誰もが圧倒されるが、主人公スタンを演じたブラッドリー・クーパーが、闇の世界に引き込まれ、やがてその世界を支配しようとする野心、さらに最後は現実を突きつけられる悲哀までを鮮やかに体現。ギレルモは彼の演出について「1930年代の銀幕スターを撮るように意識した」と語っているが、自身も監督として実力を発揮するブラッドリーは、その意図に見事に応えた。ギレルモのこだわりと、それに応える俳優のケミストリーの最高のサンプルを、スタン役のブラッドリーで目にすることができる。
『ナイトメア・アリー』© 2022 20th Century Studios.
そして全編を通して脳裏にやきつくのは、カーニバルの一座に保管されている、ホルマリン漬けの赤ん坊のイメージ。額にある3つ目の瞳は、スタンたちの常軌を逸していく行動を観察しているようでもある。かつて『パシフィック・リム』(13)でギレルモのスタジオを訪れた時、彼はKAIJU(怪獣)キャラクターのデザインを子供のように目を輝かせて説明していたが、この赤ん坊のデザインでも“奇怪なもの”への溢れる愛を集中させたのだろう。
獣人を表現する「ギーク(geek)」という単語は、「オタク」という意味もある。『ナイトメア・アリー』のラストでは、ギレルモのギークという言葉への思いがほとばしり、彼のファンは感慨に震えるかもしれない。
文:斉藤博昭
1997年にフリーとなり、映画誌、劇場パンフレット、映画サイトなどさまざまな媒体に映画レビュー、インタビュー記事を寄稿。Yahoo!ニュースでコラムを随時更新中。
『ナイトメア・アリー』
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© 2022 20th Century Studios.
発売:ウォルト・ディズニー・ジャパン