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『フルメタル・ジャケット』キューブリックが描く幼児性と狂気の関係  ※ネタバレ注意

Full Metal Jacket © 1987, Package Design & Supplementary Material Compilation © 2012 Warner Bros. Entertainment Inc. Distributed by Warner Home Video. All rights reserved.

『フルメタル・ジャケット』キューブリックが描く幼児性と狂気の関係 ※ネタバレ注意

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戦場に散りばめられた幼児性



 ベトナムで兵士向けの新聞「スターズ&ストライプス」の記者となったジョーカーは戦地に赴き、この世の地獄を目撃する。そこは幼児性が散りばめられた地獄だ。新聞の編集部にはスヌーピーが飾られ、ぬいぐるみに仕掛けられた爆弾で兵士は命を落とす。さらに、クライマックスでジョーカーたちを襲う狙撃兵の正体は「少女」である。これはその作品群のなかで幼児性に狂気と暴力を見出してきたキューブリックからの明確なサインだ。彼の映画では幼児性は狂気と死を呼び込むメタファーであり、時に幼児性からいかに脱却するかがテーマとなる。



『フルメタル・ジャケット』Full Metal Jacket © 1987, Package Design & Supplementary Material Compilation © 2012 Warner Bros. Entertainment Inc. Distributed by Warner Home Video. All rights reserved.


 『 時計仕掛けのオレンジ』(1971)の主人公アレックスは、ハットに「おむつ」という出で立ちで、暴力的な赤子として描かれた。彼はまっとうな大人になるべく洗脳まで受ける。『 シャイニング』(1980)の双子の女児のイメージは彼女たちが殺人の被害者とはいえ、余りにも禍々しい。少女への性愛を抱き破滅していく男を描いた『 ロリータ』(1962)は言わずもがなだ。


 『フルメタル・ジャケット』の前半で自死を遂げるパイルは、あまりにも善良で人を疑わない無垢な子供のようだからこそ、狂気に陥り、死を余儀なくされる。


 キューブリックの作品において死と狂気から逃れるためには、幼年期から脱却し、大人にならなければならない。『 2001年宇宙の旅』(1968)が人類を核戦争の恐怖から救うため、人類自身が次の段階へと進化、つまり「大人」となる過程を描いたように(その進化した姿が「スターチャイルド」という赤子の姿だったのは何とも皮肉だ)。そして『フルメタル・ジャケット』の主人公ジョーカーは戦場で幼児性=「狂気」が暴発しないため大人となり、自己流の安全装置を身にまとう。



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