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  4. 『フルメタル・ジャケット』キューブリックが描いてきた幼児性と狂気の関係※注!ネタバレ含みます。
『フルメタル・ジャケット』キューブリックが描いてきた幼児性と狂気の関係※注!ネタバレ含みます。

『フルメタル・ジャケット』キューブリックが描いてきた幼児性と狂気の関係※注!ネタバレ含みます。


「生まれながらの殺し屋」と「ピースマーク」の意味



 ジョーカーは自分のヘルメットにはこんな言葉を書いている。「BORN TO KiLL」(生まれながらの殺し屋)。そして胸にはピースサインのバッヂ。ピースサインは当時ベトナム戦争に反対するヒッピーたちが好んで使ったマーク。この二律背反はジョーカー流のジョークだが、同時に安全弁でもある。ジョーカーは上官にピースサインと「BORN TO KiLL」の矛盾を問いただされ、こう答える。「人間の二面性を表現しているんです」。人を食った答えのようにも聞こえるが、これは彼が精神の均衡を保つため、つまり大人としてのぎりぎりの理性を保つための方便なのだ。「殺し」と「慈悲」。この矛盾した概念の境界線上でどちらにも偏らずに自らを保つ綱渡りのような状態こそ、幼児にはできない大人としての在りようだ。子供は相反する矛盾を抱え続けることができず、物事を単純化しようとする。その単純化の果てにこそ、狂気と殺戮の深淵が口を開けて待っているとジョーカーはわかっていたのだ。




 しかし映画のクライマックス、ジョーカーは大人であるための「綱」から滑り落ちる。死にかけた敵の女性兵士を目の当たりにし、とどめを刺すため、苦悶の表情で初めて人を殺す。その時、彼の胸のピースバッヂは銃に隠れて見えない。


 女性兵士を殺したジョーカーはその直後、多くの兵士たちと「ミッキーマウス・クラブ」のテーマ曲を歌いながら戦場を行進する。その姿は子供のように誇らしげだ。


 「ぼくらはクソッタレの世界に生きている。でも僕は生きていてうれしい。もうなにも怖くない」




 恐怖を感じない幼児性にジョーカーは魅入られてしまった。そんな、狂気に堕したジョーカーをキューブリックは映画のラストで死なせることを主張した。しかし共同脚本のマイケル・ハーは反対した。なぜならジョーカーの大人としての人間性は既に消失し、単なる無個性の兵士となった。それは事実上ジョーカーの死を描いているのだからと。キューブリックはその意見に納得した。


 『フルメタル・ジャケット』ではキューブリックが選曲した60年代のポップソングが多く使われている。中でも印象深いのは映画のエンドクレジットで流れるローリング・ストーンズの「 Paint it black(黒く塗れ)」だ。この曲を聴きながらエンドロールを眺めていると、黒い絵の具を与えられた子供たちが嬉々として落書きして回る姿が想起される。子供たちは果てしなく戦場を黒く塗り込めていく。


※本文中では原作者・制作者の意図を尊重し、セリフなどはオリジナルのまま掲載させて頂いております。


参考文献: キューブリック全書/デイヴィッド・ヒューズ著

キューブリック映画の音楽的世界 (叢書・20世紀の芸術と文学) / 明石政紀著



文:稲垣哲也

TVディレクター。マンガや映画のクリエイターの妄執を描くドキュメンタリー企画の実現が個人的テーマ。過去に演出した番組には『劇画ゴッドファーザー マンガに革命を起こした男』(WOWOW)『たけし誕生 オイラの師匠と浅草』(NHK)など。現在、ある著名マンガ家のドキュメンタリーを企画中。



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『フルメタル・ジャケット』

ブルーレイ¥2,381+税/ DVD¥1,429 +税

ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント

Full Metal Jacket © 1987, Package Design & Supplementary Material Compilation © 2012 Warner Bros. Entertainment Inc. Distributed by Warner Home Video. All rights reserved.


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