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『リコリス・ピザ』若すぎて何が悪い?ロマンチックで何が悪い?
はじめましての物語
ゲイリーとアラナは何度も離れ離れになり、二人のロマンスは度々中断される。二人の物語は向こう見ずな冒険を繰り返す。俳優を志すことを決めたアラナは、ハリウッドという不思議な国を冒険する。大物俳優ジャック・ホールデン(ショーン・ペン)とレックス・ブロウ(トム・ウェイツ)の会話は、アラナが言うように台詞を話しているのか現実の話をしているのかよく分からない。映画プロデューサーのジョン・ピーターズ(ブラッドリー・クーパー)は、完全に目がキマっている(素晴らしい演技!)。同じ言語を話しているのかさえ怪しくなる彼らの言葉や振る舞いに、アラナと同じように観客さえも当惑する。
しかし置いてきぼりにされるような当惑をポール・トーマス・アンダーソンは向こう見ずな冒険として魅力的に描いていく。ガス欠になったトラックで曲がりくねった坂道をバックで下っていくシーンは、賞賛してもしきれないほどスリリングだ。ゲイリーは「ハードコア、アラナ!」と叫び、アラナのいかれた運転に興奮している。アラナはそんなゲイリーに冷ややかな視線を向ける。
『リコリス・ピザ』(C) 2021 METRO-GOLDWYN-MAYER PICTURES INC. ALL RIGHTS RESERVED.
若すぎて経験が足りないことはいけないことなのか?紆余曲折の末、アラナが勤めることになった選挙事務所で立候補者のジョエル・ワックス(ベニー・サフディ)は、市民から寄せられる疑問の声に対してこう答える。「褒め言葉をありがとう」。この言葉はサンフェルナンド・バレーを疾走するゲイリーとアラナの物語と共鳴している。若すぎて何が悪い?ロマンチックでなにが悪い?褒め言葉をありがとう!
デヴィッド・ボウイの「Life on Mars?」が鳴り響く中、「世界の終わりだ!」と歓喜の声をあげながら疾走するゲイリー。「ファックオフ・ティーンエイジャーズ!」と叫びながら全力疾走でゲイリーを迎えに行くアラナ。大人になることを急ぐゲイリーと大人になりそこねたアラナは、ロマンスの周りを旋回するように走って走って走り続けた先に、相手をなぎ倒すくらいの全力のハグに向かって突進していく。二人は全力のハグによって相手の中に自分を映す鏡を発見する。ハグの度に「はじめまして!」の挨拶をするかのように、二人は何度も何度も出会い直す。
一目惚れで始まったパンチドランクな恋が、本当のロマンスだったかどうかは分からない。人生を振り返ったとき、この夏の記憶は二人にとって苦い思い出になるのかもしれない。ただ全力でぶつかり合った二人のハグだけは本物だ。70年代のネオンが艶めかしいサンフェルナンド・バレー。トワイライトに染まった風景に二人のシルエットが溶けていく。たまらなく愛おしい。
*1 The Gurdian [‘Being in love is the most difficult challenge of your life’: Paul Thomas Anderson and Alana Haim on making Licorice Pizza ]
*2 Independent [Alana Haim: ‘All the big loves of my life have been a f***ing rollercoaster. I’d love one that isn’t’
]
映画批評。「レオス・カラックス 映画を彷徨うひと」、ユリイカ「ウェス・アンダーソン特集」、リアルサウンド、装苑、otocoto、松本俊夫特集パンフレット等に論評を寄稿。
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『リコリス・ピザ』
7.1(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー!
配給:ビターズ・エンド、パルコ ユニバーサル映画
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