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奇才ギリアムのソロ監督デビュー作『ジャバーウォッキー』が4K版で再降臨。尽きることのないイマジネーションの原点がここに
監督作に一貫する”運命の皮肉”と、ゲリラ戦術
いざ、この伝説の作品を紐解いてみて、まず目を見開くのは、やはり驚くほどの映像の豊かさだ。特に王国の城内はそこで暮らす人々の熱気と興奮にあふれ、引きで見た時の壮大さや美しさと共に、カメラが寄りで映し出す個々のキャラクターには、妙な人間臭さ、滑稽さ、薄汚さ、猥雑さがぎっしり。それでいて肝心のモンスターとの対決シーンはあの手この手のアイディアに溢れ、今のギリアム作品に繋がる奇妙キテレツな絵力がとにかく満載なのだ。
ただし注意したいのは、これがバケモノ退治の英雄譚かと思うと、そんな単純なストーリーではないということ。物事は決して順序よくは進まず、バケモノ退治もなかなか始まらない。余計な人々が次から次へと登場しては話をかき乱して、ナンセンスぶりに拍車がかかっていく。
『ジャバーウォッキー 4Kレストア版』© 1977 National Film Trustee Company Limited. All Rights Reserved.
何かを求めようとする主人公が、懸命に右往左往した結果、何一つ希望したものを得ることができないーー。これは本作にとどまらず、この後のギリアム作品に一貫するお馴染みのテーマだ。
そしてもう一つ、書籍「Gilliam on Gilliam」での発言の中で、ギリアムは当時の自らを「ゲリラ・フィルム・メーカー」と語っているが、その名に相応しく、低予算をカバーして少しでも映像を豪華に仕上げようと、様々な知恵を働かせた。
その過程ではシェパートン・スタジオに残されていた『オリバー!』(68)のオープンセットを中世風に作り替えて転用したり、はたまた『ピンク・パンサー』シリーズの製作現場から出る粗大ゴミをこっそりと持ち帰って使い回したりもしたそうだ。使えるものはなんでも作品に取り入れて活用する。ギリアムのインディペンデント・スピリットはこの頃から度を超したレベルでいかんなく発揮されていたのだ。