『NARC ナーク』あらすじ
真冬のデトロイト。市警の麻薬組織潜入捜査官だったニックは、捜査時のアクシデントの責任を問われ長らく休養していたが、他の潜入捜査官が殺害された事件の調査をするため殺人課に復帰する。コンビを組むのは、亡き捜査官の相棒だったベテラン刑事ヘンリー。相棒を亡くして以来荒れている彼は、麻薬犯罪者に対して容赦なく暴力を振るいながら捜査を進めていた。ニックは、そんな彼に疑惑の目を向けながらも独自の調査に当たり、やがて思いもしなかった真相にたどりつく……。
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ジョー・カーナハンの骨っぽさ
ハリウッドで精力的に活動している映画監督の中でも、ジョー・カーナハンは独特のポジションにいる。監督としてメガヒット作に携わったのは『特攻野郎Aチーム THE MOVIE』(10)くらい。それでも、コンスタントに作品を送り続けているのは、才腕を認められているからに他ならない。『コンティニュー』(20)に次ぐ新作『炎のデス・ポリス』(21)は、2022年7月に日本公開されたが、こちらも彼らしい骨っぽさを感じさせる快作だ。
西部劇や犯罪劇をこよなく愛するカーナハンの映画は、いかにも骨っぽい。そこには1960~70年代の、古き良き硬派アクションの香りがあふれている。そんなカーナハンの出世作となったのが、2002年に製作されたポリスストーリー『NARC ナーク』だ。トム・クルーズもプロデューサーに名を連ねた、この傑作について、本稿で語っていきたい。
舞台は現代のアメリカ、真冬のデトロイト。市警の麻薬組織潜入捜査官だったニックは、捜査時のアクシデントの責任を問われ長らく休養していたが、他の潜入捜査官が殺害された事件の調査をするため殺人課に復帰する。コンビを組むのは、亡き捜査官の相棒だったベテラン刑事ヘンリー。相棒を亡くして以来荒れている彼は、麻薬犯罪者に対して容赦なく暴力を振るいながら捜査を進めていた。ニックは、そんな彼に疑惑の目を向けながらも独自の調査に当たり、やがて思いもしなかった真相にたどりつく……。
『NARC ナーク』(c)Photofest / Getty Images
荒廃した街で繰り広げられる激情のドラマ
02年のデトロイトは、11年後に訪れる市の財政破綻に向かい崩壊の一途をたどっていた。本作におけるこの町の描写は冬の寒さも相まって、荒廃を否応なしに感じさせる。空洞化した都市、まばらな人影とシャッター街、そして廃墟に潜み、コソコソと動き回る麻薬犯罪者たち。街が荒れれば、人の心も荒れる。
主人公ニックは、そんな中でも家庭を築き、正義感を抱きながら、警官の職務をまっとうしようとしている。映画は、そんな彼の“仕事”と“家庭”をリアルにとらえている。凶悪犯罪に立ち向かい、疲れ果てて帰宅して、妻や赤子を抱きしめて父親に戻る。しかし、妻はニックが危険な仕事に戻ってしまったことに不安を隠せない。そんな妻との間の葛藤に悩みながらも、ニックは“同士”でもあった捜査官の死の真相を探らずにはいられなかった。ニック役のジェイソン・パトリックは『スリーパーズ』(96)や『スピード2』(97)でブレイクし、本作の撮影時には演技派アクターとしての地位を固めていた。
もうひとり主人公ヘンリーは昔気質で、激情的な刑事。とりわけ、子どもを虐待する犯罪者にはストレートに怒りをぶつける。妻に先立たれたうえに、凄惨な事件現場を何度も間の当たりにしてきた彼は、神経が参っているようにも見える。この危うさが、“じつは事件の真相を知っているのではないか?”というニックの疑惑を加速させ、スリルを勢いづけていく。演じたのは『フィールド・オブ・ドリームス』(89)『グッドフェローズ』(90)でおなじみのレイ・リオッタ。彼はヘンリーの威圧感を表現するために体重を増やし、髭を延ばし、なおかつ性格の裏表や感情の爆発を好演して見せる。2022年5月、リオッタは惜しまれつつ世を去ったが、本作は彼の代表作のひとつといってよいだろう。