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『ちびまる子ちゃん わたしの好きな歌』伝説の音楽アニメに込められたもの 前編

(C)(株)さくらプロダクション/日本アニメーション1992 (C)1992劇場用映画「ちびまる子ちゃん わたしの好きな歌」製作委員会

『ちびまる子ちゃん わたしの好きな歌』伝説の音楽アニメに込められたもの 前編

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人生の奥行きを感じさせる圧巻のモブ描写



 めくるめく音楽シーンの魅力で語られることが多い『わたしの好きな歌』だが、負けず劣らず素晴らしいのがモブ(群衆)の描写だ。もちろん中心にいるのは主人公のまる子であり、また劇中でまる子が知り合う絵描きのお姉さんの嫁入り話がストーリーの軸になっている。しかしこの映画では、まる子やお姉さんは、社会の中で生きている一人でしかなく、まる子が気づかない日常の外側にもさまざまな世界や人生が広がっていることが、映画のフレーム内を行き交うモブによって示されているのである。


 例えば映画の冒頭は、踏切を渡ろうとする高校生のカップルの姿から始まる。少女の方から腕を組もうとするが、照れた少年は少女の腕を振り払う。セリフひとつないほんの一瞬の描写であり、その後この二人が登場することはない。しかし、これこそが作り手の決意表明であり、本作の真髄があるのではないか、と思っている。


 実際さくらももこは、映画に併せて描き下ろした漫画版『わたしの好きな歌』の「おまけ」のコーナーでこう結んでいる。


「まる子が万歳している瞬間にも

 宇宙全体の

 それぞれの生命が並行して

 それぞれの世界をくりひろげています


 『ちびまる子ちゃん』では まる子の世界を

 クローズアップして描いていますが

 並行して動いているあらゆる世界のことを

 私は忘れないでいようと思います」


(『映画原作特別描き下ろし ちびまる子ちゃん――わたしの好きな歌――』144頁)


 つまりさくらももこは、あくまでも「世界に数多ある日常のひとつ」としてまる子の暮らしを描いているといえる。そしてこの映画版では、まる子を取り巻く、もしくはほんの一瞬だけすれ違うひとりひとりにもかけがえのない日常があることが、執拗なほどに描きこまれた周辺描写に表れているのだ。





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