衝動と衝撃。アニメーション映画『音楽』を見るとそう感じずにいられない。こんなの見たことない!面白い!そんな言葉で頭が、いや体全体が満たされていくのだ。絶賛で溢れかえるクリエイターたちのコメントも、その全てに頷き同意してしまう。
『音楽』は岩井澤健治監督が7年間に渡り、コツコツと手描きして作り上げた作品だ。それを聞いただけでも驚きを禁じ得ない。気の遠くなるような時間と手間をかけて、この衝撃作を作り上げた監督に話を伺った。
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制作に集中した7年間
Q:本作は岩井澤監督を中心に自主制作本人がほぼ一人で7年かけて作られたそうですが、この映画製作をスタートされたきっかけは何だったのでしょうか。
岩井澤:僕は実写映画の現場からキャリアをスタートしたのですが、絵を描くのも好きだったので、何か名刺代わりになるものが出来ればと自分で短編アニメを何本か作っていました。ただ、短編アニメってなかなか見てもらえる機会が少なくて、一般の映画館で公開されるためには、やっぱり長編でないとダメなんです。
映画が好きなので、自分が作ったものは映画館で公開したい。それで長編アニメに挑戦しました。以前、大橋裕之さん原作の短編アニメを作ったことがあり、それで今回も大橋さんの漫画を原作にさせていただきました。
Q:大橋裕之さんとは、もともとお知り合いなんですか。
岩井澤:そうですね。最初は共通の知り合いきっかけでお会いしましたが、その時は挨拶程度であまり話はしなっかったのですが、後にバイトも一緒になったりして、そこからすごく仲良くなりましたね。大橋さんの漫画を読んだら面白くて、すぐにアニメにしてもいいですか?と打診して最初に「山」という短編アニメを作らせてもらったんです。今回の原作の「音楽」も、漫画自体はそれほど長くはないのですが、肉付けしていけば長編に出来るかなと。その辺はあまり計画性なくスタートしました。
(C)大橋裕之 ロックンロール・マウンテン Tip Top
Q:計画性というと、スケジュールはどうされていたのでしょうか。
岩井澤:一応ざっくりはありました。しかし、お金はかけられないけど時間はかけられるという状況だったので、スケジュールを組んだところで、その通りにはいかないだろうと思っていました。スタッフもアニメ経験がない方がほとんどだったので、思った以上に全然進まない。制作開始して4年経過した頃には完全に資金も尽きていたので、途中でスポンサーを入れるかどうかも悩みましたが、自主制作で制作することに、最後まで貫きたい思いが強かったです。
それでも資金は底をついてしまい、作業ペースは格段に落ちてしまって、このままでは10年はかかるだろうという状態だったので、最終的にはクラウドファンディングで資金調達しました。
Q:お仕事などと並行して制作されていたと思いますが、7年の間で制作にかけられた時間はどれくらいだったのでしょうか。
岩井澤:7年の制作期間の8割くらいは、「音楽」の制作にあてていました。
Q:なんと…、そうでしたか…。お昼は他のお仕事をされながら、夜や空いた時間で制作していたのかと思っていました。
岩井澤:普通はそうですよね。でもそれだと、もっととんでもなく時間かかるので。制作をメインに据えたんです。
Q:失礼ですが、制作期間中の収入はどうされていたのでしょうか。
岩井澤:残った2割の時間でバイトしたり、貯金を切り崩しながら生活していました。実家が自営業でTシャツのプリントをやっていたので、そこでバイトしてたんです。バイトで変にストレスを抱えてしまうと制作に影響してくるので、バイトが実家の手伝いだったのは大きなメリットでしたね。