1. CINEMORE(シネモア)
  2. 映画
  3. 地獄
  4. 『地獄』ロミー・シュナイダーの身体に宿るメタモルフォーゼ
『地獄』ロミー・シュナイダーの身体に宿るメタモルフォーゼ

©2009 Lobster Films / France 2 Cinema

『地獄』ロミー・シュナイダーの身体に宿るメタモルフォーゼ

PAGES


壊れた映画/スクリーンテスト



「演技ではなくポーズをとる瞬間に焦点を当てることで、クルーゾーは俳優の背後にあるものを露わにしたのです」

(セルジュ・ブロンベルグ)*2


 万華鏡のように咲き乱れるイメージ。恍惚な夢の残骸。『地獄』は欠落によって見る者にとめどない好奇心を呼び起こす。ここには壊れてしまった映画へのロマンチズムが溢れている。ロミー・シュナイダーの纏うウエディングドレスのように、本作のイメージは美しく咲き乱れた次の瞬間に儚く消えてしまう。それは盛大な花火のようだ。湖で水上スキーに興じるオデットの姿は、炸裂する花火を背景にセーヌの川を水上スキーで駆け抜けた『ポンヌフの恋人』(91)の狂喜=狂気の恋人たちのイメージとつながっている。『ポンヌフの恋人』もまた、「愛の地獄」が描かれた作品といえよう。『地獄』のマルセルも『ポンヌフの恋人』のアレックスも虚妄の嫉妬に囚われ、コントロールを失ってしまう。



『地獄』©2009 Lobster Films / France 2 Cinema


 ロミー・シュナイダーを捉えるクルーゾーの実験は、偶然にもアンディ・ウォーホルの『スクリーンテスト』と共振している。物語の実用性が放棄されることで、ロミー・シュナイダーという俳優の背景=人生が浮かび上がっている。オデットの不敵な笑いのイメージには、お姫様のイメージを壊したがっていたロミー・シュナイダーの野心と、彼女自身の脆さが露わになっている。『地獄』は二重の意味で観客参加型の映画といえる。観客は未完成フィルムの断片をつなぎ合わせて完成した映画を夢想するのと同時に、不敵に微笑むロミー・シュナイダーという俳優の背景に浮かび上がる彼女の恐れ、彼女の壊れやすさを補完していく。壊れてしまった映画に、いまにも壊れてしまいそうな俳優が佇んでいる。


 それでもロミー・シュナイダーという俳優の肖像は、カメラというサディスティックな視線に負けることはない。どこまでも脆く、どこまでも圧倒的なロミー。『地獄』のカメラテストに収められたロミー・シュナイダーは、彼女がカメラの前に立つために生まれてきた俳優であることを、どの映像よりも強く証明している。


*1「ロミー 映画に愛された女 -女優ロミー・シュナイダーの生涯」(佐々木秀一著/国書刊行会)

*2 MUBI NOTEBOOK [Making "The Inferno Unseen"]



文:宮代大嗣(maplecat-eve)

映画批評。「レオス・カラックス 映画を彷徨うひと」、ユリイカ「ウェス・アンダーソン特集」、リアルサウンド、装苑、otocoto、松本俊夫特集パンフレット等に論評を寄稿。




『地獄』を今すぐ予約する↓





作品情報を見る



『地獄』

「没後40年 ロミー・シュナイダー映画祭」

 8/5(金)~8/25(木) Bunkamura ル・シネマ他全国順次公開

主催:マーメイドフィルム 配給:コピアポア・フィルム 宣伝:VALERIA

©2009 Lobster Films / France 2 Cinema

PAGES

この記事をシェア

メールマガジン登録
  1. CINEMORE(シネモア)
  2. 映画
  3. 地獄
  4. 『地獄』ロミー・シュナイダーの身体に宿るメタモルフォーゼ