自然に手を加えたことが大問題に
もう一つ語り継がれているのが、映画撮影のために使用したビーチに手を加えてしまったこと。椰子の木や草木を除去したり、砂丘を削って形状を変えたことが原因で手付かずの自然に修復しようのないダメージが生じたと、環境保護団体が猛然と抗議を行ったのだ。結果、裁判や調査が続き、この問題は映画の製作や公開が終わってもなお依然として禍根を残し続けることになる。(*2)(*3)
この一件ひとつをとってみても、本作にはミイラとりがミイラになってしまうような異様さがある。もともと『ザ・ビーチ』には、前述のとおり、海外からのバックパッカーたちが東南アジアに様々な神秘体験や楽園を求めてやってきて、自分たちの国では決して許容されないようなことを平然と行ってしまうことへの批判があったはずだ。
『ザ・ビーチ』(c)Photofest / Getty Images
製作チームは本作が投げかける教訓について痛いほど熟知していたはずなのに、いざ撮影をはじめると、タイ当局の許可は得ていたとはいえ、映画のためにビーチの形を変えてしまったのである。こうなるともう、楽園を独占してこの地に排他的な理想郷を築こうとしたサル(ティルダ・スウィントン)のことを誰も笑えない。
ただし、人間は過ちから多くを学ぶ生き物だ。一説によるとダニー・ボイル監督は後の『スラムドッグ・ミリオネア』(08)の製作時、できるだけ最小限の人数でインド入りして、キャストや多くのスタッフを現地採用したと言われる(*2)。スタッフの約半分(200人ほど)を引き連れて現地入りした『ザ・ビーチ』に比べると、ボイルの映画づくりの姿勢や理念は格段に進歩を遂げていることが伺える。