映画から20年以上を経て、今の楽園は…
さて、物語の舞台となったこのビーチは、案の定、観光客の定番スポットとなって多くの人々が集まるようになった。その数、いちばん多い時で1日の来訪者が6,000人にのぼっていたというから驚異的だ。しかしそんな最中、珊瑚などへの悪影響が確認されたため、2018年、タイ当局が期間限定で立ち入り禁止区域に指定することとなる
奇しくも『ザ・ビーチ』の中でも「楽園に人が押し寄せて存続がままならなくなる」ことへの危惧が描かれるが、それから十数年後、まさにそれと同じ事態が起こってしまった。そして全てのきっかけがこの映画だったというのは非常に大きな皮肉である。
結果的に、この立ち入り禁止状態はコロナの時期も加わって4年近くに及んだ。現在は立ち入りは可能だが、そもそもこのビーチへたどり着くための船のアクセスが制限されているほか、観光客の滞在時間も制限され、他にも遊泳禁止だったり、監視員が常駐したりと、かつてに比べて多くの常識がアップグレードされてしまった。(*4)。
『ザ・ビーチ』(c)Photofest / Getty Images
かくも『ザ・ビーチ』を2022年の文脈で見直すと、様々な箇所が教訓として浮かび上がってくる。と同時に、世界を思いのままに旅することができた時代が懐かしくなり、不意に胸が締め付けられる人も多いのではないだろうか。
多くの問題を内包し、提示しながら、今なおダフィの如く無意識下からムクムクと起き上がり、「ビーチ行かねえか?」と誘ってくる本作。ディカプリオという最高のメジャーどころを擁しつつも、その不気味ないでたちは、怪作あるいはカルト作と呼ぶ方がふさわしいのかもしれない。
参考:
*1: https://www.interviewmagazine.com/film/alex-garland
*2:https://www.yahoo.com/entertainment/the-beach-bombs-looking-back-on-leonardo-109411359197.html
*3: https://www.theguardian.com/film/1999/oct/29/news.johnvidal
『ザ・ビーチ』DVD音声解説
1977年、長崎出身。3歳の頃、父親と『スーパーマンII』を観たのをきっかけに映画の魅力に取り憑かれる。明治大学を卒業後、映画放送専門チャンネル勤務を経て、映画ライターへ転身。現在、映画.com、EYESCREAM、リアルサウンド映画部などで執筆する他、マスコミ用プレスや劇場用プログラムへの寄稿も行っている。
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