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『みんなのヴァカンス』ぼくらが旅に出る理由、この旅には続ける理由がある

(C)2020 – Geko Films – ARTE France

『みんなのヴァカンス』ぼくらが旅に出る理由、この旅には続ける理由がある

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楽園を作り直す



「大半は郊外の人間だ。荒廃しきった団地に住んでいる。ひどい所さ。貧民にとってここは王宮なのさ」(『友だちの恋人』)


 ギヨーム・ブラックはドキュメンタリー映画『宝島』(18)で、エリック・ロメールの『友だちの恋人』(87)の舞台となった、セルジー・ポントワーズのレジャー施設を撮っている。ギヨーム・ブラックの子供時代の思い出に捧げられているこの作品は、『友だちの恋人』から約30年間をまたぐ時間旅行ともいえる。レジャー施設の景色はすっかり変わってしまっているが、人々がヴァカンスのためにここに集まる理由はそれほど変わらないのかもしれない。それどころか今日多くの人種が利用するこの施設には、フランス社会の現在が鏡のように反映されているともいえる。『みんなのヴァカンス』では介護士のフェリックス、スーパーでアルバイトをするシェリフの黒人青年二人と、二人に騙されて相乗り同行することになった裕福な白人青年エドゥアールを加えた三人による不思議な旅、南フランスの田舎町ディーでのヴァカンスが描かれている。三人の間に生まれる人種的、経済格差的な摩擦は、彼らの連帯によって前景から後景に移っていく。



『みんなのヴァカンス』(C)2020 – Geko Films – ARTE France


「私が好むのは、映画の冒頭に社会的な目印があり、それが映画が進むにつれて消え去り、私たちが忘れてしまうようなやり方です」(ギヨーム・ブラック)*1


 このやり方は俳優が役を演じるプロセスにも適用されている。学生が起用された本作では、三週間のワークショップの間に自分を語ることから始め、ゆっくりと自分自身に似た役柄をフィクションの世界に移行できるように、俳優を導いていったという。俳優は自分自身を演じることから出発し、やがて自分自身を忘れていく。そして本作の予測不能な演技に大きな役割を果たしているのが、ギヨーム・ブラックの一歳になる娘の出演だろう。本作には娘にとっての初めての夏が記録されている。


 中耳炎のため川に潜れないシェリフは皆と離れ、ヴァカンス中に出会った子連れのエレナと行動を共にする。シェリフは彼女の娘の子守をする。演技のコントロールを予め放棄せざるを得ない赤ちゃんとの即興的なやり取りが、初めて出会う人との摩擦や連帯を描いた冒険映画としての側面を、そして本作における俳優の演技を、より豊かなものにしている。本作では学生キャストの経験値に合わせるように、まだ経験の浅い技術スタッフが多く起用されているという。赤ちゃんのように真白な「初めての映画」を志す、楽園を作り直す、という意味でも、本作は冒険映画なのだ。




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