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『カラー・オブ・ハート』色彩テクニックが示唆するアメリカの分断(前編)

(c)Photofest / Getty Images

『カラー・オブ・ハート』色彩テクニックが示唆するアメリカの分断(前編)

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50年代のホームコメディとは



 「プレザントヴィル」のモデルとなっているのは、「パパは何でも知っている」(54~60)などのシットコムである。アメリカの郊外に49年から盛んに作られた、レヴィットタウンと呼ばれる新興住宅地が舞台で、“何でも知っている”父親と、専業主婦の母親、素直で健全な子供たちを登場人物とするのが定型だった。


 第二次世界大戦中、出征した男性の代わりに、多くの女性たちが兵器工場などでの労働を担った。戦後はその反動で、女性が家庭に戻り専業主婦となる。そして復員軍人がレヴィットハウスに家庭を構え、急速に核家族化が進んでいった。これに冷戦や赤狩りも拍車をかけ、アメリカ国内は極端な保守思想に覆われていく。つまり能天気なホームコメディの背景には、当時の社会情勢も大きく反映されていたのである。



『カラー・オブ・ハート』(c)Photofest / Getty Images


あらすじ②



 その世界では、住人が同じ毎日を繰り返している。消防士の仕事は、木に登って降りられなくなった猫を救出するだけだ(火が燃えることはないため、火事という概念が存在しない)。バッドとメアリー・スーの通う高校では、町の外に世界は存在しない(つまりドラマのオープンセットの中が全て)と教えている。図書館の本も表紙だけで、中身はすべて白紙だった。


 バッドは、ドラマ内の秩序を守らないと元の世界に戻れないと考え、反抗的なメアリー・スーと口論になる。しかし彼女は我慢できず、クラスメイトにスラングを教え、純真なバスケット部の主将スキップ(ポール・ウォーカー)をデートに誘う。バッドは、バイト先であるソーダショップに遅刻するが、店主で厨房担当のビル(ジェフ・ダニエルズ)に、うっかり作業手順を効率化するアドバイスをしてしまった。


 さらにバッドは、客として来店したメアリー・スーとスキップがデートに向かうのを見て、慌てて仕事を放り出し、店から飛び出していった。ビルは、バッドの仕事を肩代りしたことで、完全にリズムを狂わせる。ビルは、そのことをわざわざバッドの家まで報告に来るが、そこで母親のベティ(ジョアン・アレン)に一目惚れする。


 一方メアリー・スーとスキップは、“恋人たちの水辺”で健全なデートをしていた。だが、この状況がもどかしいメアリー・スーは、強引にカーセックスへ及んでしまう。だがこの世界には、セックスという概念自体が存在していなかった。衝撃を受けたスキップは、帰り道で“赤いバラ”を目撃する。スキップはこの経験を仲間たちに話し、その影響は急速に拡がって行った。


 やがてバブルガムがピンクになり、女子生徒の舌もピンク色になる。さらに、性に目覚めた者たちが次々とカラーになり、いまや“恋人たちの水辺”の周囲は色彩で溢れ返っていた。また異変は色彩だけでなく、ビルが仕事の単調さに悩み始めたり、家具店で誰も見たことがないダブルベッドが発売されるという現象も現れる。




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