『ロックンロール・ハイスクール』3分間のポップミュージックがくれる魔法

ガールズ・ジャスト・ワナ・ハヴ・ファン

　「ドラムスティックを鳴らして歩いている私は思った以上にバカに見えた。でもそれも効果的だった。劇場で足を踏み鳴らす音がした」（マーキー・ラモーン）*3

　マーキー・ラモーンはニューヨークで行われた『ロックンロール・ハイスクール』の試写会に変装して見に行ったという。スクリーンに登場する革ジャンを着た自分たち四人組をまるで「宇宙人の一団のよう」に感じたが、観客のこの映画への熱狂ぶりには確かな手ごたえを感じた。本作はニューヨークでの劇場公開を皮切りとしなかったためか、公開当初の反応はそれほどよいものではなかったという。ところがシカゴでミッドナイトムービーとして公開された際、映画評論家のロジャー・エバートとジーン・シスケルによって高く評価されたことから形勢が変わってくる。『ロックンロール・ハイスクール』ほど、劇場体験による口コミで右肩上がりに盛り上がっていくのにふさわしい映画もなかなかない。

『ロックンロール・ハイスクール』© 1979 New World Productions Inc. All Rights Reserved.

　オープンカーに乗ったラモーンズのメンバーが演奏しながら登場する、本作のファーストショットは最高だ。ジョーイは食べかけのチキンを道端に投げ捨てる。そしてナンバープレートはラモーンズの定番曲のフレーズ「GABBA GABBA HEY」。そしてリフ・ランデルが高校の生徒全員を引き連れて向かうライブハウスのシーンにおける熱狂。ラモーンズの騒音はネズミを爆発させてしまうという実験結果が出ていたにも関わらず、ライブハウスでは大きなネズミも熱狂している。エキストラに支払う予算がなかったため、このライブはお客さんがラモーンズに会うために実際にお金を払って集まったライブでもある。20時間以上に及ぶ撮影の間、ラモーンズのメンバーは文句の一つも言わずに応じたという。このライブによってリフ・ランデルとケイトの友情が深まるところも素晴らしい。ラモーンズは彼女たちのための曲を演奏する。二人の友情よ、永遠に。

　そして校長による圧制に苦しむ彼女たちの元に、ラモーンズが助けにやって来る。反抗と狂騒のパーティータイム。ジョーイとリフ・ランデルを先頭に学校の廊下を演奏しながら進んでいくショットは、本作のクレイジーさを象徴する最高のショットだ。

　『ロックンロール・ハイスクール』で生徒たちは誰一人罰せられることがない。この作品の帰結点としてこれほど素晴らしい選択もない。リフ・ランデルという一人の少女と愉快な仲間たちは、人生を楽しむ権利を主張する。映画や音楽、そして物語だけが、彼女たちの権利や友情を罰することなく終えることができる。本作は、誰にも邪魔されずに人生を楽しみたかった少女たちの権利を掲げ、彼女たちによる勝利を、高く突き上げられた拳のように宙に留め続けることを選択する。それは3分間のポップミュージックがくれる熱狂、そして魔法とよく似ているのだ。

*1 The Village Voice [Q&A: Rock ‘N’ Roll High School Director Allan Arkush Looks Back]

*2 Consequence.net [Rock ‘n’ Roll High School 40th Reunion: Do Your Kids Know You’re Ramones?]

*3 「Punk Rock Blitzkrieg My Life as a Ramone」(By Marky Ramone & Richard Herschlag)

文：宮代大嗣（maplecat-eve）

映画批評。「レオス・カラックス　映画を彷徨うひと」、ユリイカ「ウェス・アンダーソン特集」、リアルサウンド、装苑、otocoto、松本俊夫特集パンフレット等に論評を寄稿。

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『ロックンロール・ハイスクール』

シネマート新宿にて公開中 ほか全国順次公開

提供：キングレコード　配給：ビーズインターナショナル

© 1979 New World Productions Inc. All Rights Reserved.