2022.10.14
原作者が現代人に遺したメッセージとは
実はそんな名優2人よりもさらに強烈な印象を残すのが、劇中に登場する合計4人のBoysを1人で演じたジェレミー・ブラックだ。画面に登場した途端、その真っ青な瞳で相手を威圧し、子供とも、大人とも、純真とも、邪悪とも取れる演技で観客の心を凍り付かせてしまう。その個性は作品の主柱と言えるもの。この不気味な子供、確かにいそうだと思わせるリアリティが、さらなる恐怖を呼び起こすのである。本作でハリウッドを震撼させたブラックだったが、その後はあっさりハリウッドを捨ててニューヨークの舞台へと活躍の場を移した。
『ブラジルから来た少年』(c)Photofest / Getty Images
映画史的な見地から『ブラジルから来た少年』をカテゴライズすると、同じくナチス戦犯を巡るスリラー『オデッサファイル』(74)や前出の『マラソンマン』、『ジェネシスを追え』(80)、そして、危険な子供たちを描いた『エクソシスト』(73)や『オーメン』(76)とを合体させた、スリラー映画として位置付けることができるかも知れない。後者には悪魔の子供を宿した母親の恐怖と葛藤を描いた『ローズマリーの赤ちゃん』も当然入るだろう。
さらに言えば、『ローズマリーの赤ちゃん』と『ブラジルから来た少年』には、日常の中に潜む恐怖、言い換えると「汝の隣人を恐れよ!」という、原作者アイラ・レヴィンが現代人に遺した遺言のようなものが共通していて、そこが今見ても震える最大の理由なのではないだろうか。
アパレル業界から映画ライターに転身。映画com、ぴあ、J.COMマガジン、Tokyo Walker、Yahoo!ニュース個人"清藤秀人のシネマジム"等に定期的にレビューを執筆。著書にファッションの知識を生かした「オードリーに学ぶおしゃれ練習帳」(近代映画社刊)等。現在、BS10 スターチャンネルの映画情報番組「映画をもっと。」で解説を担当。
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