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『なまいきシャルロット』“あこがれ”を身に纏う、永遠のシャルロット

© TF1 FILMS PRODUCTION – MONTHYON FILMS – FRANCE 2 CINEMA

『なまいきシャルロット』“あこがれ”を身に纏う、永遠のシャルロット

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「あこがれ」



 「”女の子は自分の意思で行動する”という原則からスタートしました」(クロード・ミレール)*1


 『なまいきシャルロット』の少女に男性作家によるロリータ幻想が投影されていないのは、アニー・ミレールの功績が大きいという。共同脚本として参加したアニー・ミレールは、男性的なファンタジーを避けるために、クロード・ミレールからアドバイザーを依頼されている。シャンタル・アケルマンの映画や『サガン -悲しみよ こんにちは-』(08)のフランソワーズ・サガン役で知られる俳優のシルヴィー・テステューは、『なまいきシャルロット』のシャルロットを見て初めて映画に恋をしたと語っている。本作が提示する理想化されていない平均的な女の子の姿に共感を覚えたという。


 シャルロットの額は夏の強い日差しを浴びて汗ばんでいる。やや脂分を含んだ前髪。13歳の退屈な夏。シャルロットは美しいピアノの旋律に導かれ、テレビモニターに映る同い年の天才ピアニスト、クララ・ボーマンが演奏している姿に魅せられる。男子生徒たちに茶化され、惨めな思いをしていたシャルロットは、モニターに映るクララが自分と目を合わせてくれているような感覚に陥る。尊いファン心理のようなこの思い込みを、シャルロットはクララから送られた「サイン」として受け取る。シャルロットの自己肯定感は低い。彼女は人生を変えてくれるような「サイン」を待っていた。



『なまいきシャルロット』© TF1 FILMS PRODUCTION – MONTHYON FILMS – FRANCE 2 CINEMA


 シャルロットの暮らす町で二人は偶然出会うことになる。天才ピアニストであるクララは、自身の持つ華々しいスター性と才能に自覚的だ。自己肯定感の低さと無鉄砲な自信が混在しているシャルロットとは、絵に描いたように対照的な存在といえる。華やかな世界で生きているクララに近づきたい。大人の世界への好奇心と子供の世界を離れてしまうことへの恐怖心が、衝動に駆られたシャルロットの汗ばんだ表情に整理されることなく滲んでいく。シャルロットはおそらく初めて自分の意志で行動している。そしてカメラは無謀な熱量に対する代償を記録していく。シャルロットは、どうにもならない人生の冷たさを知ることになる。


 シャルロットは「あこがれ」の世界に生きている。シャルロットに厳しい意見をぶつけながら、いつも彼女の心に寄り添っている家政婦レオーヌを演じているのが、ヌーヴェルヴァーグの自由の象徴ともいえるベルナデット・ラフォンであることは興味深い。フランソワ・トリュフォーの傑作短編『あこがれ』(57)で憧れの対象だった彼女が、シャルロットの憧れに寄り添っている。近所に住む小さな親友ルルを含めた三人は、ルノワール的な風景の草原へとピクニックに出掛ける。レオーヌとの口論の末、疲れ果てたシャルロットが不意につぶやく「言いたいことが何も言えない」という言葉が胸を打つ。シャルロットは自分の熱量を言葉にすることができない。あらゆる準備がまだ整っていない。ゆえにその思いが胸を締めつける。





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