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『メランコリア』クリームの上にクリームを重ねたような、甘美な黙示録

(c)Photofest / Getty Images

『メランコリア』クリームの上にクリームを重ねたような、甘美な黙示録

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『メランコリア』あらすじ

うつ病を抱えるジャスティンは、マイケルとの披露宴を台無しにして、離縁を突きつけられてしまう。夫も職も失った彼女は、姉クレアとその夫ジョンの屋敷で静養することに。やがて巨大惑星“メランコリア”が地球に接近していることが判明し、衝突の可能性にクレアたちは恐れおののくが、ジャスティンは逆に生気を蘇らせていく…。


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カンヌからの追放



 映画界の「神聖かまってちゃん」ならぬ、「真性こまったちゃん」ことラース・フォン・トリアー。彼が“やらかした”のは2011年5月18日、カンヌ映画祭会見場でのことだった。新作『メランコリア』(11)の公式上映を控え、キルスティン・ダンスト、シャルロット・ゲンズブール、ステラン・スカルスガルド、ジョン・ハート、ウド・キアといった出演者と共に、トリアーはおよそ40分にわたる会見をこなしていた。


 最後にイギリスのタイムズ紙が、彼にドイツ人としてのルーツについて質問を投げかける。実は、それまでトリアーが父親と信じていたインゲルとは遺伝子の繋がりはなく、フリッツ・ミカエル・ハートマンというドイツ人が実の父親であることを、母親の遺言で知らされていたのだ。


 ラース・フォン・トリアーにとってこの告白は、自分のアイデンティティーが揺るがされる出来事だったことだろう。記者会見でそのことについて聞かれた彼は、何を血迷ったか突然自らをナチスと称し、ヒトラーに共感していると爆弾発言をブチかます。


 「僕は長い間、自分がユダヤ人だと思っていたし、そのことに満足していたのだけれど、後になって自分はそうではないことを知った。父親がドイツ人だったので、本当はナチスであることが分かったんだ。確かにヒトラーは間違ったこともしたけど、彼のことは理解しているつもりだよ。(中略)オーケー、僕はナチスだ」(*1)


 この親ナチ発言直後、会見場では笑いが漏れていた。同席していた出演者たちも笑顔を見せていた。ただ一人、傍らで表情を強張らせていたキルスティン・ダンストを除いて。彼女はことの重大さをいち早く察知し、トリアーが“自爆”することを防ごうとするが、全ては後の祭りだった。


 「大勢がそこに座っていた。ステラン・スカルスガルドも、ジョン・ハートも、シャルロット・ゲンズブールもいた。でも誰も何も言わなかった。誰も助けようとしなかった。私だけがラースに寄り添い、止めさせたの」(*2)


 トリアーはジョークと弁明したものの、カンヌは彼をペルソナ・ノン・グラータ(好まざる人物)と断定。映画祭からの追放という重い処分を下す。トリアーにとっては黒歴史となってしまった『メランコリア』だが、筆者はこの映画を愛してやまない。正直トリアーの良い観客ではないが、この作品だけは別格ナリ。彼のフィルモグラフィーの中で最も傲慢で、最も身勝手で、そして最も痛快な作品だと思っているからだ。




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