※本記事は物語の核心に触れているため、映画をご覧になってから読むことをお勧めします。
『ソラリス』あらすじ
惑星ソラリスの周回軌道上に浮かぶ宇宙ステーションに派遣されたケルビンは、到着早々異様に荒廃したステーション内の状況に驚く。三人いる研究者のうち一人は死亡し、一人は自室に閉じこもり、もう一人も謎めいたことを言うばかり。さらに睡眠をとったケルビンが目を覚ますと、傍らには死んだはずの妻・レイアがいた。どうやら幽霊でも幻影でもなく、なんらか意思を持ったソラリスがケルビンの記憶から実体化させたコピーらしい。そして他の研究者にもそれぞれに訪問者がいた……。
Index
- バリー・ジェンキンス監督が愛したソダーバーグ版『ソラリス』
- SF界の巨匠レムが描いた未知との遭遇
- 映画化作品に苦言を呈した原作者レム
- ソダーバーグ版に充溢する“寂しさ”の感覚
- ソダーバーグが施したアップデート
- ミニマリストとしてのソダーバーグが生んだ寂しさの映像詩
バリー・ジェンキンス監督が愛したソダーバーグ版『ソラリス』
『ムーンライト』(16)、『地下鉄道~自由への旅路~』(21)のバリー・ジェンキンス監督は、映画学校時代に『ソラリス』を繰り返し観たくて映画館に6回は通ったという。ただしアンドレイ・タルコフスキー監督によるSF映画の金字塔『惑星ソラリス』(72)ではない。同じスタニスワフ・レムの原作小説「ソラリスの陽のもとに」(現在は「ソラリス」と改題)を2002年に再映画化した、スティーヴン・ソダーバーグ監督のバージョンの方だ。
ジェンキンスはコロナ禍に入った2020年、「隔離期間に観るべき8本の映画」を発表し、その中に『ソラリス』を挙げた(ちなみにタルコフスキー作品では『惑星ソラリス』ではなく『ストーカー』を選んでいる)。筆者はジェンキンスがあえてソダーバーグ版をチョイスしたことに驚いたが、同時に同志を得たような気分になった。両作品はほぼ同じ話でもまったく趣を異にしており、ソダーバーグ版『ソラリス』は不当に過小評価されていると感じてきたからだ。
『ソラリス』予告
世間的な知名度も評価もタルコフスキー版の方がはるかに高いことは承知の上で言わせてもらうが、ソダーバーグ版『ソラリス』はSF映画の系譜の中でも特筆すべき名作だと思っている。さらに言えば一部のファンに熱狂的に支持されているカルト映画でもある。『ソラリス』を傑作だと断言するジェンキンスも、そんなソダーバーグ版に魅せられたフリークの一人なのだろう。