SF界の巨匠レムが描いた未知との遭遇
まず簡単に『ソラリス』の概要をおさらいしておきたい。もともとはポーランドのSF作家スタニスワフ・レムが1961年に発表した長編小説で、舞台は宇宙開発が進んだ未来。ソラリスという惑星が発見されてから100年が経ち、人類はソラリス全体を覆っている海は大きな生命体であるという仮説を立てて、神秘を解き明かす研究を続けていた。
ソラリスの周回軌道上に浮かぶ宇宙ステーションに派遣された主人公のケルビンは、到着早々異様に荒廃したステーション内の状況に驚く。三人いる研究者のうち一人は死亡し、一人は自室に閉じこもり、もう一人も謎めいたことを言うばかり。さらに睡眠をとったケルビンが目を覚ますと、傍らには死んだはずの元恋人・ハリー(ソダーバーグ版では妻・レイア)がいた。どうやら幽霊でも幻影でもなく、なんらか意思を持ったソラリスがケルビンの記憶から実体化させたコピーらしい。そして他の研究者にもそれぞれに訪問者がいた……。
『ソラリス』(c)Photofest / Getty Images
物語は、複雑かつ圧倒的な存在である“ソラリス”の謎と、ソラリスが創り出した“元恋人のような存在”にまつわる倫理的葛藤の二本柱で進んでいく。
レムにとってこの物語は「人知を超えた未知の存在との遭遇と探求」がテーマだった。なぜソラリスはハリーを再生させてケルビンのもとに送り込んだのか? その理由は一切明かされないし、そもそも理由なんてなかったのかも知れない。ステーションの研究者たちは、ただ翻弄され、混乱し、なんとか事態を収拾する。果たして彼らが得たものは平穏なのか寂寥なのか。そしてケルビンはそれでも「人間の倫理や感情を超えたものの存在」を信じて、ソラリスに留まることに一縷の希望にも似た可能性を見出すのである。