ミニマリストとしてのソダーバーグが生んだ寂しさの映像詩
もともとソラリスの再映画化は、長年ジェームズ・キャメロン監督が温めていた企画だった。キャメロンは映画化権は保持していたものの、多忙でなかなか手がつけられず、ソダーバーグからのアプローチもあって監督を任せることにした。ソダーバーグは珍しく、監督だけでなく脚本も執筆している。
キャメロンはプロデューサーとしていくつか助言をしたが、基本的にはソダーバーグの創造性を尊重してサポートに徹し、キャスティングに口を出すことも撮影現場に足を踏み入れることもなかったという。
『ソラリス』(c)Photofest / Getty Images
キャメロンはもし自分で監督していたら、もっとスペクタクルなSF映像を多く入れただろうとコメントしている。しかしソダーバーグはミニマリストとしての美学に従い、ほかの多くの監督作と同様に、必要だと思う描写だけを残して刈り込んでいく作業を行った。タルコフスキーの『惑星ソラリス』は2時間45分あるが、ソダーバーグの『ソラリス』は99分しかないというのも、それぞれの作風の違いを如実に表している。
ソダーバーグは、原作にあった哲学的考察の大半も大胆に削除した。その理由については「よりエモーショナルな映画にしたかったから」と語っているが、だからといって甘いだけのメロドラマにはなっていない。カンヌ国際映画祭でパルムドールに輝いたデビュー作『セックスと嘘とビデオテープ』がそうだったように、表面的な冷たさと内面の熱量が絶妙に混ざりあい、前述した“寂しさ”のような感情を刺激してくれる詩のような映画になった。心が辛い時にほど胸に沁みる内省的なSF映画として、今後さらに大勢の理解者が生まれることを願いたい。
参考資料:
『ソラリス』DVDコメンタリー
ハヤカワ文庫『ソラリス』、訳者・沼野充義氏による解説
The Atlantic「8 Films to Watch Right Now, According to Barry Jenkins」
文:村山章
1971年生まれ。雑誌、新聞、映画サイトなどに記事を執筆。配信系作品のレビューサイト「ShortCuts」代表。
(c)Photofest / Getty Images