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ソダーバーグ版『ソラリス』寂しさの感覚が充溢する映像詩

(c)Photofest / Getty Images

ソダーバーグ版『ソラリス』寂しさの感覚が充溢する映像詩

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ソダーバーグが施したアップデート



 ケルビンとレイアのラブストーリーを重視したという点では、確かにソダーバーグはレムの意図に反したのかも知れない。しかしソダーバーグ版と原作に共通して感じられるのは、ノスタルジーに耽溺することなく未知の領域に踏み込もうとする探求の姿勢だ。レムが描いた小説が、人間の理解を超えた領域を目指すSF精神を核にしているとすれば、ソダーバーグ版は個人的な愛の探求を経由しながら同じ精神へとたどり着くのである。


 ソダーバーグ版のラストは、ソラリスの中での出来事とも、ケルビンが見た束の間の幻影とも、人によっては死後の世界や異次元と捉えることもできるだろう。いずれにせよ、悲しみの先に進もうするケルビンの決意とSF的な知的探究心がシンクロして、えもいわれぬカタルシスが押し寄せる素晴らしいクライマックスだと思っている。



『ソラリス』(c)Photofest / Getty Images


 またソダーバーグは2002年の時点で非常に現代的なアップデートを施している。未来の地球の姿はよりリアルに根ざしたものとなり、街は多様な人種や文化がクロスオーバーし、NASAの公的事業だったソラリス探索は、利潤を求める巨大企業に売却されようとしている。アナログとデジタルが同居したデザインが秀逸で、ケルビンがレイアに目を留めるきっかけも列車に乗り合わせたレイアがたまたま持っていたドアノブだった。


 近未来の都市には場違いな骨董品のドアノブはいかにも意味深だが、ソダーバーグによると当初の脚本にはなく、レイア役のナターシャ・マケルホーンに小道具室から好きなものを取ってきてほしいと頼んで、たまたま選ばれたものだったという。いかにも現場での判断を重視するソダーバーグらしい逸話だが、結果的に本作独特のレトロフューチャー感を成立させるだけでなく、個人の記憶と深遠な宇宙というミクロとマクロを繋ぐ大切な要素になっている。





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