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『パンチドランク・ラブ』ポップで、ハイブロウで、エキセントリックなラヴ・ストーリー

(c)Photofest / Getty Images

『パンチドランク・ラブ』ポップで、ハイブロウで、エキセントリックなラヴ・ストーリー

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アートハウス的なアダム・サンドラー映画



 ポール・トーマス・アンダーソンは、映画評論家ロジャー・イーバートとのインタビューにおいて、『パンチドランク・ラブ』を「アートハウス的なアダム・サンドラー映画」と評している。


 “アートハウス的”という表現をどう捉えるのかは正直微妙なところだが、少なくとも“お洒落”だとか“脱力系”だとか、そんなヤワな言葉でこの映画を捕捉することはできない。むしろ、それとは最も遠い位置に『パンチドランク・ラブ』は鎮座している。神経症的で、暴力的で、狂気に満ちたクレイジー・ロマンティック・コメディ。そして、その主役に最もふさわしい役者こそが、アダム・サンドラーだったのである。彼に関するポール・トーマス・アンダーソンの発言を引用してみよう。


「彼が『The Denise Show』というトーク番組で別れた元カノについて話していたら、父親が電話をかけてきて、“何をやっているんだ、家族の恥さらしだ!”と言ってきたんだ。そうしたらアダムは激怒して父親に向かって何やら叫びだした。彼の白目が黒くなって、頭の中がクラクラするような瞬間だった。まるで、正気を失ってしまったかのようだったよ」(*)



『パンチドランク・ラブ』(c)Photofest / Getty Images


 ビル・マーレイ、トム・ハンクス、ジム・キャリー、ベン・スティラー、ウィル・フェレル、ポール・ラッド、セス・ローゲン…。コメディアン出身俳優は数多いるものの、彼ほど喜怒哀楽を最大出力できる猛者はなかなかいない。アダム・サンドラーは怒りの感情を源泉にして笑いをかっさらう。しかもその裏には、えも言われぬ哀しみが渦巻いている。だから彼は、芸風はバイオレントなのにどこかロマンティックなのだ。


 印象的なシーンがある。キレてオフィスの壁を殴りつけ、血まみれになってしまうバリー。その手の切り傷が、「love」というワードを綴っているのだ。もしくは、二人がハワイのホテルで初めて結ばれるシーン。「君の顔を叩き潰してやりたい」だの、「目をえぐり出して食べちゃいたい」だの、ホラーチックなセリフのオンパレード。まさに、“バイオレントなのにどこかロマンティック”!これぞアダム・サンドラーの真骨頂なり。




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