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『RRR』歴史上の人物に基づく堂々たるフィクション、新たなる神話的叙事詩

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『RRR』歴史上の人物に基づく堂々たるフィクション、新たなる神話的叙事詩

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歴史上の人物を用いた、堂々たるフィクション



 S.S.ラージャマウリは『RRR』を映像化するにあたって、若き日のチェ・ゲバラが南アメリカを縦断するロードムービー『モーターサイクル・ダイアリーズ』(04)がヒントになったことを明言している。喘息持ちの医大生だったゲバラは、南米社会の現実を目の当たりにして、革命の志を抱くようになる。その姿に、インドの偉大な革命家コムラム・ビームとA.ラーマ・ラージュを重ね合わせたことは、想像に難くない。


 現実には、ビームは戦いの最中に命を落とし、ラーマは捕らえられて銃殺刑に処されている。だが、S.S.ラージャマウリはそのような歴史を愚直にトレースすることはしない。歴史上の人物を用いて、堂々たるフィクションを描く。


 「これは本当の歴史ではない。歴史フィクションだ。登場人物は実在するけど、この映画に描かれるような出来事は起こっていない。(中略)『RRR』では、困難な時代を舞台にすることで、登場人物たちが時代の緊張感からくる葛藤に直面していることを発見したんだ」(※2)



『RRR』©2021 DVV ENTERTAINMENTS LLP.ALL RIGHTS RESERVED.


 ここで連想するのは、クエンティン・タランティーノだ。近年彼は、『イングロリアス・バスターズ』(09)で「もし、ヒトラーが自殺していなかったら?」、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(19)で「もし、シャロン・テートがマンソン・ファミリーに殺害されなかったとしたら?」という妄想を爆発させて、偽史を綴っている。それと同じような想いで、S.S.ラージャマウリは“あり得たかもしれないもう一つの世界線”…マルチバースを産み出したのかもしれない。


 だが、そのアプローチは非常に神話的。インドの大長編叙事詩「ラーマーヤナ」と「マハーバーラタ」を引用しつつ、二人を革命家ではなく伝説の勇者に見立てることで、新世紀の叙事詩として創り上げている。ハイ・ファンタジーを数多く手がけてきた彼ならではの発想だろう。


 クライマックスで、ビームは水の神、ラーマは火の神のように降臨。ラーマはほとんど「ラーマーヤナ」に登場する神のような出で立ちだ(現実のラーマもこのような衣装に身を包んでいたらしいが)。『RRR』はかつての英雄を讃える映像的神話であり、映像的叙事詩なのである。





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