何を描き、何を描かないのか
血湧き、肉躍る!例えるなら、『RRR』のアクション・シーンはそんなスペクタクル性に満ちている。ド派手ではあるけれども、決して超現実的ではない。そのバランスが見事だ。
「私は、常に限界に挑戦することが好きだ。登場人物が超能力を持っていれば、素晴らしいスペクタクルを作り出すことができるだろう。しかし私としては、キャラクターがそのような力を持ってしまったら、観客が何でもできると思ってしまったら、クリエイティブな緊張感がなくなってしまう。私は、キャラクターはリアルに、アクションは大げさなくらいにしたいんだ」(※3)
冒頭から、ノンストッパブルなアクションが炸裂。警察官ラーマがたった一人で何千人もの民衆と戦うのである。かつて『300 〈スリーハンドレッド〉』(07)のジェラルド・バトラーは、 わずか300名の軍勢で100万のペルシア軍に立ち向かったが、こちとら自分オンリー。孤軍奮闘にもほどがある。S.S.ラージャマウリはこの演出にはかなり頭を悩ませたようだが、ドニー・イェンばりの棒術、高低差をつけたアクション、ハイスピード撮影(スローモーション)の多用、小気味良い編集で観る者を圧倒する。
『RRR』©2021 DVV ENTERTAINMENTS LLP.ALL RIGHTS RESERVED.
驚くべきは、アクションがないダレ場でも緊張感が持続していること。筆者が考えるに、その理由は2つある。一つは、「実は敵対関係にある二人の正体が、いつバレるのか」というサスペンスの生成。もう一つは、「この二人がいつ手を組むのか」という期待を抱かせていることだ。瞬間的な視覚的興奮をふんだんにバラまきつつも、その先の展開を観客に予感させることで、3時間の長尺を飽きさせない構成になっているのである。
実はこの映画、驚くほど恋愛描写が少ない。ラーマとシータ(アーリヤー・バット)とのロマンスは希薄だし、ビームはジェニー(オリヴィア・モリス)に憧れの感情は抱くものの、それ以上の関係になることはない。象徴的なのが、ビームとラーマがパーティー会場で踊る「ナートゥ・ナートゥ」のシーン。「タンゴもフラメンコも踊れないくせに」と罵倒された二人は、激しいドラムのビートに合わせて超絶ダンシング。倒れた者は即失格、厳かなパーティはダンスバトル大会へと変貌を遂げる。彼らが踊る理由は、求愛行動ではなく差別への抵抗。“革命の物語”をメインストーリーにドカンと配置し、枝葉末節なサイドストーリーには決して流れないのである。
何を描き、何を描かないのか。S.S.ラージャマウリは用意周到に計算し、プランニングしたに違いない。だからこそ、『RRR』はエンターテインメントが最高密度に詰まっている。断言しよう。この映画はアタマからシッポまで面白い作品である、と。
※1
https://deadline.com/2022/04/rrr-ss-rajamouli-interview-box-office-marvel-1234997120/
※2、3
https://www.indiewire.com/2022/09/rrr-interview-ss-rajamouli-1234768479/
文:竹島ルイ
ヒットガールに蹴られたい、ポップカルチャー系ライター。WEBマガジン「POP MASTER」主宰。
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