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『バルド、偽りの記録と一握りの真実』アレハンドロ・G・イニャリトゥが今の自分を吐露する”映像集”

© Limbo Films, S. De R.L. de C.V. Courtesy of Netflix

『バルド、偽りの記録と一握りの真実』アレハンドロ・G・イニャリトゥが今の自分を吐露する”映像集”

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『バルド、偽りの記録と一握りの真実』あらすじ

ロサンゼルスを拠点に活動するメキシコの著名なジャーナリスト兼ドキュメンタリー映画製作者のシルヴェリオは、権威ある国際的な賞の受賞が決まった後に故郷へ戻ることになり、メキシコへと旅立つ。まさかこの何でもない旅行をきっかけに、生きる意味すら見失うことになるとは知らずに...。かつての自分の愚かさと恐怖心は、現在のシルヴェリオの在り方を脅かし、彼の日常は戸惑いと疑問で溢れていく。



 第35回東京国際映画祭のガラ・セクションに、アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥの最新作『バルド、偽りの記録と一握りの真実(以下、バルド〜)』が出品された。そして、同映画祭は14年ぶりに復活した”黒澤明賞”をイニャリトゥに授けた。授賞式に先駆けての記者会見で、イニャリトゥは黒澤に対するリスペクトを表明すると共に、『黒澤監督は人間の矛盾とは何かを立体的に表現していて、決して安易な結末に走らない作品を作り上げている』と、独自の黒澤論を展開する。


 それは、自伝的な要素が強いと言われる『バルド〜』で彼が追い求めた、”自分とか何か?故郷とは何か?”人生はどこに向かうのか?”という根源的な問題にも通じる。彼の彷徨える魂は、全編に散りばめられた独創的なショットを介して、『バルド〜』の端々から感じ取れるのだ。


『バルド、偽りの記録と一握りの真実』予告


Index


最新作『バルド〜』が描く混乱



 イニャリトゥが製作、監督、共同脚本、そして編集を担当する『バルド〜』は、彼の分身と思しきロサンゼルス在住のメキシコ人ジャーナリストでドキュメンタリー作家のシルベリオが、国際的権威のある映画賞を受賞後、祖国に戻るまでの道程を描く。シルヴェリオはスペイン人俳優のダニエル・ヒメネス・カチョがエキセントリックに演じている。しかし、これは単なるロードムービーではない。シルヴェリオは旅の途中で自身のアイデンティティ、手にした成功、死、妻や子供たちとの絆、そして、メキシコの歴史と向き合うことになるのだ。


 プロットはシンプルだが、過去と現在、真実と幻想が頻繁に交差するそのタッチは、見方によっては混乱をもたらすかもしれない。イニャリトゥ自身も、『あらかじめ断っておく。私は結局、絶対的な真理を見出せなかった。ただ、現実と想像の間の旅があるだけだ』と告白しているように。はたしてシネフィルたちは、『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』(14)と『レヴェナント:蘇えりし者』(15)で2年連続のアカデミー監督賞に輝いた現役最高峰の監督の言葉をどう受け止めるだろうか?


 映画は見たこともないショットで始まる。何者かが息を切らしながら荒野をジャンプする”影”(姿ではない)が、荒れ果てた大地を上下する。あたかもそれは、成功を夢見て故郷のメキシコから世界へ飛び出した主人公のはやる心と、掴みきれない実感を表しているかのようだ。他にも、あまり趣味がいいとは言えないシルベリオの生々しい誕生シーン、過去と現在が同一画面で描かれる母国メキシコの歴史、等々、イニャリトゥは今、彼の心の中に浮かぶ映像を本物にするために、与えられた製作費を思う存分注ぎ込んでいるように思える。



『バルド、偽りの記録と一握りの真実』© Limbo Films, S. De R.L. de C.V. Courtesy of Netflix


 かなり分かりやすいシーンもある。それは、かつて母国を略奪した国(つまりアメリカ)に住む外国人としての、アイデンティティの喪失に言及している部分だ。とはいえ、イニャリトゥはハリウッドで最高の賞を2度も授与され、映画作家としての地位と名誉に浴する身である。今さらアイデンティティと言われて、どれだけの人が共感するだろうか?つまるところ、彼は今、混乱の中にいるのかも知れない。これ以上は望めないキャリアを手にした後、自分はどこに向かうべきなのかと自問自答したとき、浮かんだのが半自伝的作品で描く原点回帰だったのではないだろうか。


 しかし、同郷の盟友、アルフォンソ・キュアロンが脚本と撮影を兼任した『ROMA/ローマ』(18)で、自身の少年時代を家政婦の視点で描くことで原点に帰ろうとしたのとは異なり、『バルド〜』は時間軸と空間軸を慌ただしく行き来する分、ストーリーより視覚重視の作品になっている。



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