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『ザ・メニュー』人々の虚栄心や自尊心を丸裸にする、血生臭い風刺劇

©2022 20th Century Studios. All rights reserved.

『ザ・メニュー』人々の虚栄心や自尊心を丸裸にする、血生臭い風刺劇

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『ザ・メニュー』あらすじ

太平洋岸の孤島を訪れたカップル。お目当ては、なかなか予約の取れない有名シェフが振る舞う、極上のメニューの数々。 「ちょっと感動しちゃって」と、目にも舌にも麗しい、料理の数々に涙するカップルの男性に対し、女性が感じたふとした違和感をきっかけにレストランは徐々に不穏な雰囲気に。 なんと、一つ一つのメニューには想定外の“サプライズ”が添えられていた… 。果たして、レストランには、そして極上のコースメニューにはどんな秘密が隠されているのか?そしてミステリアスな超有名シェフの正体とは…?


Index


批評する/批評されるという構造



 筆者は高級レストランに免疫がない。うっかりそんな場所に足を踏み入れてしまったら、尋常じゃないくらいに舞い上がってしまう。それがフランス料理となれば、なおさらだ。滅多に口にすることのない高級食材が、聞いたことのない難しそうな調理方法で、華やかなデコレーションの皿に盛り付けられて運ばれる。ウェイターの丁寧な説明なんか、さっぱり耳に入ってこない。シェフが挨拶に来ようもんなら、たとえ味が好みではなかったとしても、「庶民たる自分の舌がおかしいのだ」と自分に言い聞かせ、「あ、とても美味しかったです」と中身のない賛辞を送り続けるだろう。自分、わりと簡単に権威にひれ伏すタイプです。


 確かに、エミー賞にもノミネートされた人気ドキュメンタリー「シェフのテーブル」(Netflixでも観れます)なんかを観ていたら、「一流シェフが腕によりをかけて創り上げた料理を、一度でいいから食べてみたい」という気持ちはムクムクと湧き上がってくる。絶品メニューに舌鼓を打ちたい、という欲求も生まれてくる。だが、事態はそう簡単ではない。高級レストランが纏っているある種の権威性に、我々は対峙しなくてはならない。シェフが綿密に計算した「オードブル〜メイン料理〜デザート」までの物語を咀嚼し、その意図を掴むこと。それはもはや批評的な行為である。


『ザ・メニュー』予告


 ひょっとしたらコレって、現代アートにも近似した感覚なのかもしれない。東京藝術大学大学名誉教授の秋元雄史氏は、その著作『アート思考』のなかで下記のように解説している。


 「現代社会の課題に対して、何らかの批評性を持ち、また、美術史の文脈の中で、なにがしかの美的な解釈を行い、社会に意味を提供し、新しい価値をつくり出すこと」


 全てのアートやカルチャーは、批評する/批評されるという構造に回収される。しかしながら“食”にもこの批評性が適用されてしまうと、なかなかにタチが悪い。それを批評できるのは、単純に金銭面において優位性のある者しかいなくなるからだ。だがその批評者は、本当に批評に足る者なのだろうか?単にお金を持っているだけの経済的強者だけではないのだろうか?


 超富裕層の独占的支配による、価値観の歪み。人々の虚栄心や自尊心。それを非常に理知的に、強烈な皮肉を交えて描いた作品が本作『ザ・メニュー』(22)である。





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